
偽装結婚~代理花嫁の恋~
第6章 ★Sadness~哀しみ~★
由梨亜は三鷹を引っ張って家の中に連れていった。大柄な彼と小柄な由梨亜とでは、どうしても由梨亜が三鷹を引きずるような形になってしまう。
苦労してやっとリビングまで連れてきたときには、息が上がっていた。
「服を着替えなきゃ」
言おうとして、由梨亜はハッとした。三鷹の服がいつもとは全く違うものだったからだ。出勤すると言いながら、毎日、ラフなTシャツと履き古しのジーンズで出かけて帰ってくるのに、今夜に限ってスーツ姿である。
しかも、仕立ての良い上品な濃紺のスーツはどう見ても、最高級のブランド品だ。
だが、今は服装に拘ってはいられない。由梨亜は子どもに言い聞かせるように言った。
「ね? ちゃんと着替えましょう。寝るのなら、パジャマに着替えて―」
「じゃあ、由梨亜ちゃんが着替えさせて」
「―」
由梨亜は息を呑んだ。由梨亜が三鷹の服を脱がせる―。それだけの言葉で動揺する自分を叱りつけ、我慢強く言う。
「手助けはするから、ちゃんと自分で着替えましょう」
「いやだ、由梨亜ちゃんが脱がせてくれるのでなければ、着替えない」
まるで手に負えない駄々っ子である。由梨亜は深い息を吐いた。
「判った」
酔ったままの彼をこのまま放り出しておくわけにはゆかない。由梨亜は三鷹の背広の前ボタンを外しにかかった。しかし、指が震えて、上手く外せない。
仰向けに眼を閉じていた三鷹が急に眼を開いた。
「震えてるのか?」
「えっ」
眠っていたのかと思っていた彼に話しかけられ、由梨亜は愕きのあまり飛び上がった。
「震えてなんかいないわ」
由梨亜は気丈にも言い放ち、今度はできるだけ平然としてボタンを次々に外していった。続いて白いワイシャツのボタンに手を掛けた時、三鷹が唐突に言った。
「先にズボンを脱がせてくれ」
それには由梨亜も言葉を失った。
「ズボンは後で自分一人でやって」
やっとの想いで告げると、三鷹が笑いを含んだ声で言った。その声音には、かすかに嘲りが混じっていたのだ。
苦労してやっとリビングまで連れてきたときには、息が上がっていた。
「服を着替えなきゃ」
言おうとして、由梨亜はハッとした。三鷹の服がいつもとは全く違うものだったからだ。出勤すると言いながら、毎日、ラフなTシャツと履き古しのジーンズで出かけて帰ってくるのに、今夜に限ってスーツ姿である。
しかも、仕立ての良い上品な濃紺のスーツはどう見ても、最高級のブランド品だ。
だが、今は服装に拘ってはいられない。由梨亜は子どもに言い聞かせるように言った。
「ね? ちゃんと着替えましょう。寝るのなら、パジャマに着替えて―」
「じゃあ、由梨亜ちゃんが着替えさせて」
「―」
由梨亜は息を呑んだ。由梨亜が三鷹の服を脱がせる―。それだけの言葉で動揺する自分を叱りつけ、我慢強く言う。
「手助けはするから、ちゃんと自分で着替えましょう」
「いやだ、由梨亜ちゃんが脱がせてくれるのでなければ、着替えない」
まるで手に負えない駄々っ子である。由梨亜は深い息を吐いた。
「判った」
酔ったままの彼をこのまま放り出しておくわけにはゆかない。由梨亜は三鷹の背広の前ボタンを外しにかかった。しかし、指が震えて、上手く外せない。
仰向けに眼を閉じていた三鷹が急に眼を開いた。
「震えてるのか?」
「えっ」
眠っていたのかと思っていた彼に話しかけられ、由梨亜は愕きのあまり飛び上がった。
「震えてなんかいないわ」
由梨亜は気丈にも言い放ち、今度はできるだけ平然としてボタンを次々に外していった。続いて白いワイシャツのボタンに手を掛けた時、三鷹が唐突に言った。
「先にズボンを脱がせてくれ」
それには由梨亜も言葉を失った。
「ズボンは後で自分一人でやって」
やっとの想いで告げると、三鷹が笑いを含んだ声で言った。その声音には、かすかに嘲りが混じっていたのだ。
