偽装結婚~代理花嫁の恋~
第6章 ★Sadness~哀しみ~★
「でも、気になるんだろう?」
「知りません」
プイと顔を背けると、三鷹が嘲るような笑みを浮かべた。
「いつもそうやって逃げてばかりだな、君は」
「それは、どういう意味? 私は逃げたつもりはないけど」
「そんなに怒るくらいなら、先に寝てれば良かったのに」
こうなると、売り言葉に買い言葉である。
「よく言えるわね。私はまだ夕ご飯も食べていないのよ。あなたが帰ってこないし、何かあったんじゃないかと心配で、ご飯を食べる気にもならなかった。遅くなるなら遅くなるで、電話くらいしてくれても良いじゃない」
「へえ、まるで女房のようなことを言うんだな。本当の夫婦でもないのに、こんなときだけ女房面するな」
「―」
その科白に、息が止まるかと思った。まるで頭を殴られたような衝撃だった。
「私なりに一生懸命やってるわ」
それが、由梨亜の応えられる精一杯の言葉であった。
「そうなのか? 俺には全然、そんな風にしは見えないけどな」
「何が言いたいの?」
三鷹がゆるりと身を起こした。
淡い闇の中、二つの視線が絡み合う。男の瞳の奥底で烈しい情欲の焔が燃えていた。
「じゃあ、女房だっていうのなら、俺の言うことをきけよ。それとも、やっぱり、怖じ気づいて逃げ出すのか?」
「先刻も言ったはずよ。逃げたりなんかしないわ」
「じゃあ、俺の言うことを何でもきけるのか?」
由梨亜はかすかに頷いた。
張り詰めた沈黙の中、由梨亜はまともに彼の眼を見ていられなかった。思わず視線を逸らそうとするのに、三鷹は乾いた声音で告げた。
「俺のものになれ」
「馬鹿なことを言わないで」
「馬鹿げている? 今し方、君自身が俺の言うことをきくと意思表示したばかりじゃないか」
「内容によりけりよ」
ふと三鷹の表情が翳った。今し方までのどこか皮肉げな表情は消え、まるで傷ついた迷子のような眼をしている。
「知りません」
プイと顔を背けると、三鷹が嘲るような笑みを浮かべた。
「いつもそうやって逃げてばかりだな、君は」
「それは、どういう意味? 私は逃げたつもりはないけど」
「そんなに怒るくらいなら、先に寝てれば良かったのに」
こうなると、売り言葉に買い言葉である。
「よく言えるわね。私はまだ夕ご飯も食べていないのよ。あなたが帰ってこないし、何かあったんじゃないかと心配で、ご飯を食べる気にもならなかった。遅くなるなら遅くなるで、電話くらいしてくれても良いじゃない」
「へえ、まるで女房のようなことを言うんだな。本当の夫婦でもないのに、こんなときだけ女房面するな」
「―」
その科白に、息が止まるかと思った。まるで頭を殴られたような衝撃だった。
「私なりに一生懸命やってるわ」
それが、由梨亜の応えられる精一杯の言葉であった。
「そうなのか? 俺には全然、そんな風にしは見えないけどな」
「何が言いたいの?」
三鷹がゆるりと身を起こした。
淡い闇の中、二つの視線が絡み合う。男の瞳の奥底で烈しい情欲の焔が燃えていた。
「じゃあ、女房だっていうのなら、俺の言うことをきけよ。それとも、やっぱり、怖じ気づいて逃げ出すのか?」
「先刻も言ったはずよ。逃げたりなんかしないわ」
「じゃあ、俺の言うことを何でもきけるのか?」
由梨亜はかすかに頷いた。
張り詰めた沈黙の中、由梨亜はまともに彼の眼を見ていられなかった。思わず視線を逸らそうとするのに、三鷹は乾いた声音で告げた。
「俺のものになれ」
「馬鹿なことを言わないで」
「馬鹿げている? 今し方、君自身が俺の言うことをきくと意思表示したばかりじゃないか」
「内容によりけりよ」
ふと三鷹の表情が翳った。今し方までのどこか皮肉げな表情は消え、まるで傷ついた迷子のような眼をしている。