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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第6章 ★Sadness~哀しみ~★

「由梨亜ちゃんは俺が嫌い?」
「―判らない」
「それでは応えになっていないよ」
「もう止めましょ、こんな話。あなたは今、酔っているわ。まともに話のできる状態じゃない」
「俺は確かに酔ってるけど、冷静に物事を考えるくらいのゆとりはあるさ。由梨亜ちゃん、頼むから本心を教えてくれ。君は本当に俺のことを何とも思ってはいないのか?」
 由梨亜がうつむいていると、三鷹の声が意外なほどの至近距離で聞こえた。いつのまにか彼は由梨亜の傍らに来ていたようである。
「私、疲れているから」
 立ち上がりかけた由梨亜の手を三鷹が掴み、強く引いた。勢いで呆気なく三鷹の腕の中に倒れ込んだ由梨亜を彼はそのまま押し倒した。
「君のバースデーを二人で祝った日、俺は君に言った。もし、俺を嫌いでないのなら、あのまま俺の側にいてくれと。君はあの時、ちゃんと自分で選択したはずだ。君が今、俺の側にいるのは俺が強要したわけじゃく君自身て選んだんだぞ」
「あれは―偽装結婚の契約が完了するまでの話でしょう」
 苦し紛れの言い訳を述べてみても、三鷹には通じない。
「俺は今、そんな話をしてるんじゃない。俺が言いたいのは、あの時、君がここにいることを選んだのは、俺を多少なりとも好きだという証なんだろうってことだ」
 三鷹は由梨亜の頭の両脇に手をついて、彼女を逞しい腕の中に閉じ込めていた。
「頼む、本心を聞かせてくれ。君がもし本当に俺を嫌いだというのなら、俺はあのときと同じく潔く引く。だが、もし君が俺を好きなら、俺を受け容れて欲しいんだ」
 とうとう、この瞬間が来てしまった―。
 由梨亜はともすれば込み上げそうになる涙を堪えた。
「好きよ」
「え?」
 自分で応えを迫っておきながら、三鷹は信じられないと言いたげに訊き返した。
「―私も好きよ、あなたのこと」
「じゃあ―」
 三鷹の孤独を宿した双眸が俄に光を取り戻した。
「あなたと同じ。どうしようもないくらい、あなたが好き」

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