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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第2章 ★A women meets a man ★

 最初、お仕着せのコンビニ制服を着た由梨亜を相手はまじまじと見つめた。その顔には信じられないと書いてある。
 さほど親しい間柄ではなかったけれど、同期入社だということで、社内で顔を合わせれば挨拶はするし、たまに立ち止まって短い話をすることもあった。
―まさか、城崎さん?
 名を呼ばれ、由梨亜は穴があれば、すぐにでも入りたい気持ちになった。
 S物産といえば、この関西の小さな地方都市でも名の知れた老舗企業だ。地元で育った人間ならば、就職希望先候補として考えるベスト5には必ず入っているといわれている。
 近年の経営悪化にも拘わらず、リクルート学生からの人気と支持は衰えてはいない。
 というのも、S物産の名前もさることながら、去年の終わりに社長の一人息子が海外支社から帰国、老齢の大叔父に代わって急遽、副社長の座についた。その息子は何でも伝説の御曹司らしく、東大の法科を卒業し、アメリカの有名大学の大学院で経営学を修めてから、そのままニューヨーク支社に入り活躍していたという。
 アメリカ撤退も時間の問題といわれていた支社の慢性的な経営不振を立て直し、見事に赤地会計を黒地会計に転じさせた。モデル並みのルックスを持ち、身長は180センチ、体重は六十キロと見事な体躯で顔は福山雅治似だとか、何とか。
 まあ、そこまで揃った御曹司となれば、伝説に嫌が上にも尾ひれがつくのも納得はいく。
 瀕死の支社を建て直したということで、〝ミラクル・プリンス〟と呼ばれ、今回は本社の危機を救うために社長の懇願により帰国が決まった。
 どうも、その伝説は嘘ではなかったようだ。帰国した御曹司は副社長の座につくやいなや、経営不振を打開する方策を次々と編み出し、実行に移していった。
―他人の恨みを買えば、回り回って、自分に返ってくる。強引な人員削減はむしろ長期的に見て、会社のためにはならないでしょう。
 果敢にも、彼は社長に直談判したそうだ。
 彼は基本的に社員の首切りには反対だというが、父親である社長がこれには断固として頷かないので、いかんともしがたかった。

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