テキストサイズ

偽装結婚~代理花嫁の恋~

第6章 ★Sadness~哀しみ~★

 翌朝、由梨亜はまたしても寝過ごしてしまった。昨夜は朝まで三鷹に何度も抱かれ、烈しく求められた。あまりの甘美で烈しい肉体の責め苦に、最後には意識を手放してしまったほどだ。
 昨夜の出来事を思い出し、由梨亜は恥ずかしさに頬を赤らめた。三鷹は自分のことを淫らな女だと呆れたかもしれない。初めてのときは痛いという知識くらいは持っていたが、正直、痛みもさることながら、そちらよりも気持ち良さや快感の方が強く感じられたのだ。
 初体験ではあまり感じないって何かの本で読んだのに、由梨亜は昨夜、三鷹に抱かれて、あんなにも感じてしまった。もしかしたら、自分はとんでもなく淫乱なのだろうか。
 埒もない不安に紅くなったり蒼くなったりしながら、由梨亜はベッドの上に上半身を起こした。その拍子に、下肢を鈍い痛みが走った。
「―痛っ」
 思わず声を上げてしまい、由梨亜は眉根を寄せた。今度は用心しながらゆっくりと動いたけれど、それでも下半身が身動きする度に悲鳴を上げる。
 由梨亜が眠っていたのは当然ながら、三鷹の寝室のベッドであった。由梨亜は頬を染めながら、三鷹の部屋を初めてゆっくりと見回した。ベッドはダブルで、一人眠るのは勿体ないほどの広さだ。ブルーとホワイトのストライプ模様のリネン類で纏められている。
 部屋の片隅には木製のテーブルがあり、小さな液晶テレビとノートパソコンが整然と並んでいた。後は作り付けの衣装箪笥が一つ。
 仕事は書斎で行うのだろう。寝室の方には余分なものは殆ど見当たらなかった。淡いブルーのカーテンのかかった窓際に軽量のライティングデスクが設置され、読みかけらしい文庫本が無造作に置かれていた。
 ふと興味を引かれて近寄ってみる。カバーのかかった文庫本の上に一枚のカードが添えられていた。ホワイトの名刺大のカードは周囲を金の繊細な蔦模様が飾っている。
―今日は、どこかに美味しいものでも食べにいこう。それはそうと、身体は大丈夫? 夕べはかなり無理をさせてしまった。初めての君には堪えたのではないかと心配している。                三鷹
 この字は入院中の母に贈られた花かごに着いていたカードに記された文字と一致する。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ