偽装結婚~代理花嫁の恋~
第6章 ★Sadness~哀しみ~★
どちらも三鷹が書いたものだから、当然といえば当然ではあるけれど、なかなかの達筆だ。
流れるような筆致でありながら、雄々しい。精悍さと優美さをほどよく調和させている三鷹の美貌ともあい通ずるものがある。
改めてカードを読み直し、由梨亜はまた頬を上気させた。
―身体は大丈夫?
最後の部分はかなり意味深な科白だ。深い仲になった二人にしか通じない秘め事めいたものを感じさせてしまう。
由梨亜は誰もいるはずがないのに、頬を染めたまま周囲を慌てて見回した。
頬が熱い。両手で頬を押さえ、小さな息をつくと、身体に負担がかからないように用心しながらベッドから降り、リビングに向かった。キッチンで熱いコーヒーを淹れ、ミルクだけを入れて飲んだ。この様子では到底、バイトには出られそうになく、やむなく携帯でバイト先に電話をして、今日は都合で休ませて欲しいと告げる。
とにかく母の見舞いにだけは行きたかったので、時間をかけて支度をし昼前にマンションを出た。
病室にはまたしても母はいなかった。ナースステーションに行くと、今日は種々の精密検査が行われるので、今は階下に降りているという。
「経過も良いので、今日の検査で特に異常がなければ、二週間後の退院も本格的に決まりそうですよ」
すっかり顔見知りになった看護士長が笑顔で教えてくれた。
「そんなに早く退院できそうなんですか?」
当初は短くても二ヶ月と言われていたはずなのに、二週間後ということは実質、一ヶ月半ということになる。
由梨亜は士長に礼を述べて、また明日、ゆっくりと顔を見にくるからと伝えて欲しいと告げて病院を出た。病室で待っても良かったのだけれど、まだ二時間くらいはかかりそうだと聞いて、出直すことにしたのである。
母が二週間も早く退院する! 娘としては歓ぶべきことなのに、何故か素直に歓べない自分がいた。その理由が三鷹にあることは判りきっている。
二ヶ月の間だけは彼と一緒にいられると思っていたのに、別離はこんなにも早く突如としてやってきた。
流れるような筆致でありながら、雄々しい。精悍さと優美さをほどよく調和させている三鷹の美貌ともあい通ずるものがある。
改めてカードを読み直し、由梨亜はまた頬を上気させた。
―身体は大丈夫?
最後の部分はかなり意味深な科白だ。深い仲になった二人にしか通じない秘め事めいたものを感じさせてしまう。
由梨亜は誰もいるはずがないのに、頬を染めたまま周囲を慌てて見回した。
頬が熱い。両手で頬を押さえ、小さな息をつくと、身体に負担がかからないように用心しながらベッドから降り、リビングに向かった。キッチンで熱いコーヒーを淹れ、ミルクだけを入れて飲んだ。この様子では到底、バイトには出られそうになく、やむなく携帯でバイト先に電話をして、今日は都合で休ませて欲しいと告げる。
とにかく母の見舞いにだけは行きたかったので、時間をかけて支度をし昼前にマンションを出た。
病室にはまたしても母はいなかった。ナースステーションに行くと、今日は種々の精密検査が行われるので、今は階下に降りているという。
「経過も良いので、今日の検査で特に異常がなければ、二週間後の退院も本格的に決まりそうですよ」
すっかり顔見知りになった看護士長が笑顔で教えてくれた。
「そんなに早く退院できそうなんですか?」
当初は短くても二ヶ月と言われていたはずなのに、二週間後ということは実質、一ヶ月半ということになる。
由梨亜は士長に礼を述べて、また明日、ゆっくりと顔を見にくるからと伝えて欲しいと告げて病院を出た。病室で待っても良かったのだけれど、まだ二時間くらいはかかりそうだと聞いて、出直すことにしたのである。
母が二週間も早く退院する! 娘としては歓ぶべきことなのに、何故か素直に歓べない自分がいた。その理由が三鷹にあることは判りきっている。
二ヶ月の間だけは彼と一緒にいられると思っていたのに、別離はこんなにも早く突如としてやってきた。