偽装結婚~代理花嫁の恋~
第6章 ★Sadness~哀しみ~★
由梨亜は泣き腫らした眼をこすりながら、緩慢な動作で起き上がった。どうやら、知らない間にリビングのソファで眠っていたようである。
既に部屋の中は淡い宵闇が忍び込んでいた。あれから―三鷹があろうことかS物産の副社長、伝説の若きプリンスであることを知り数時間、由梨亜はマンションでずっと泣いていた。我ながらよく涙が後から後から出るものだと思うくらい泣けた。
痛む眼をしょぼつかせて時計を見ると、午後七時前だった。いつもなら、そろそろ三鷹が帰る頃だ。
―俺は真面目な会社員だよ。
彼はいつもおどけてそう言っていたのに、由梨亜はまるで信じようとはしなかった。
「会社員もただの会社員じゃない、伝説のミラクル・プリンスだなんて。そんなドラマか映画のような話なんて、あるはずもないのに。何で私が巻き込まれなきゃならないの」
また涙が滲んできて、手のひらでこすった。と、静まり返った部屋の空気を震わせて、玄関のインターフォンが響いた。由梨亜は思わず身を竦ませた。
いよいよ対決の瞬間が来たのだ。
リビングのソファに座っていると、三鷹が静かに入ってきた。様子を窺うような気配に次いで、部屋の電気が灯った。
由梨亜をひとめ見るなり、三鷹はあからさまな安堵の表情を浮かべた。偽装結婚を始めた夜、無理矢理、彼がキスをしかけてきた翌朝もこんなことがあった。あのときも彼は由梨亜が出ていかなくて良かったと心底から嬉しそうな顔をしたのだ。
「君が出ていって、いないんじゃないかと思った。もう二度とここへは帰ってこないのではないかと不安でならなかったよ」
由梨亜が沈黙を守っているため、部屋に満ちた静寂がよりいっそう重たくなった。
三鷹は二人の間に漂う緊張感を認めまいとでもするかのように、一方的に喋り続けた。
「明かりもつけないでいたの?」
由梨亜は視線だけを動かして三鷹を見上げた。眩しい明かりが一瞬、泣き腫らした眼を眩しく射貫いた。
三鷹がハッとしたような表情になった。
「泣いていたんだね」
「よほど出て行こうと思ったけど、まだ、私はあなたから何も真相を聞いていないわ。幾ら取る足りない私のような人間でも、理由と真相くらいは知る権利があるはずよ」
既に部屋の中は淡い宵闇が忍び込んでいた。あれから―三鷹があろうことかS物産の副社長、伝説の若きプリンスであることを知り数時間、由梨亜はマンションでずっと泣いていた。我ながらよく涙が後から後から出るものだと思うくらい泣けた。
痛む眼をしょぼつかせて時計を見ると、午後七時前だった。いつもなら、そろそろ三鷹が帰る頃だ。
―俺は真面目な会社員だよ。
彼はいつもおどけてそう言っていたのに、由梨亜はまるで信じようとはしなかった。
「会社員もただの会社員じゃない、伝説のミラクル・プリンスだなんて。そんなドラマか映画のような話なんて、あるはずもないのに。何で私が巻き込まれなきゃならないの」
また涙が滲んできて、手のひらでこすった。と、静まり返った部屋の空気を震わせて、玄関のインターフォンが響いた。由梨亜は思わず身を竦ませた。
いよいよ対決の瞬間が来たのだ。
リビングのソファに座っていると、三鷹が静かに入ってきた。様子を窺うような気配に次いで、部屋の電気が灯った。
由梨亜をひとめ見るなり、三鷹はあからさまな安堵の表情を浮かべた。偽装結婚を始めた夜、無理矢理、彼がキスをしかけてきた翌朝もこんなことがあった。あのときも彼は由梨亜が出ていかなくて良かったと心底から嬉しそうな顔をしたのだ。
「君が出ていって、いないんじゃないかと思った。もう二度とここへは帰ってこないのではないかと不安でならなかったよ」
由梨亜が沈黙を守っているため、部屋に満ちた静寂がよりいっそう重たくなった。
三鷹は二人の間に漂う緊張感を認めまいとでもするかのように、一方的に喋り続けた。
「明かりもつけないでいたの?」
由梨亜は視線だけを動かして三鷹を見上げた。眩しい明かりが一瞬、泣き腫らした眼を眩しく射貫いた。
三鷹がハッとしたような表情になった。
「泣いていたんだね」
「よほど出て行こうと思ったけど、まだ、私はあなたから何も真相を聞いていないわ。幾ら取る足りない私のような人間でも、理由と真相くらいは知る権利があるはずよ」