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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第6章 ★Sadness~哀しみ~★

 三鷹は苦しげに眉根を寄せ、首を振った。
「仕事に関しては、時には非情にならざるを得ないこともある。俺の肩には何千、何万という社員、更にその家族の生活までかかっているんだ。余計な私情を挟んで万が一判断を誤れば、俺一人だけでなく、すべての人々を巻き込むことになってしまうんだよ」
 由梨亜は心もち首を傾げた。
「じゃあ、女性に関しての華やかな噂については? まあ、大邸宅に世界各国の美女を集めて一大ハーレムを作っているというのだけはデマのようだけど」
 現実には、三鷹は高級マンションとはいえ、四LDKに住んでいる。それに、少なくとも、このマンションに他の女の影は一切なかった。ただ一人、由梨亜を除いては。
 三鷹の顔が曇った。
「どうして、そんな酷いことが言えるんだ。確かにこれまで何人かの女性と付き合ってきたよ。それは認める。でも、複数の女性を天秤にかけたこともないし、一人の女性と付き合っているときは真剣に交際していたつもりだ」
 確かに以前にも一度、似たような科白を聞いたことがある。何人かの女性と真剣に付き合ってみたけれど、結婚をするまでには至らなかったと。更に、彼はこうも言ったのだ。
 結婚したいと思ったのは由梨亜ただ一人だ―と。
 だが、あれも所詮は大嘘だった。天下のミラクル・プリンスが由梨亜のように平凡で何の取り柄もない女を本気で相手にするはずが―ましてや結婚しようとなど思うはずがないのだ。
 由梨亜は厄介な感傷や想い出を振り払い、即座に切り捨てた。
「あなたの女性関係や遍歴なんて、私にはどうでも良いの」
 本当はどうでも良いどころか、気になって仕方がない。たとえハーレムを作っていなかったとしても、真剣に交際していたのだとしても、三鷹が自分以外の女性に優しく微笑みかけたり、或いは昨夜のようにベッドで情熱的に求めているのを想像しただけで、気がおかしくなりそうだ。
 自分の心はまだ三鷹を求めている。
 だが、騙された挙げ句に利用されていると判った今、彼の前でそれを認めるのは自分があまりに惨めだった。

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