偽装結婚~代理花嫁の恋~
第6章 ★Sadness~哀しみ~★
三鷹が哀しげに瞳を揺らした。
「何故、君はそう決めつける? 俺の気持ちが君に判るんだ?」
「あなたと私ではあまりにも違いすぎるわ。たとえ真実のあなたがどうあれ、あなたは伝説のプリンスでありS物産の副社長、いずれは社長になる男なの。母子家庭でささやかな幸せをこの世の幸せだと思って育ってきた私には理解できない世界だし、あなたも私にすぐに飽きて、つまらない女だと思うようになる」
「そんなことはない! 何度も言ってるだろ。お袋と親父のような不幸を俺は二度と繰り返したくない。自分自身の人生に持ち込むつもりはないんだ。由梨亜となら、ささやかな幸せを得られると思ったし、君なら、そういうごく平均的な幸せを本当の幸せだと感じられるだけの純粋で素直な心を持っている。もちろん、それだけじゃない。俺の心が誰よりも何よりも君を求めてやまないんだ」
振り絞るような口調には果てのない懇願の響きがあった。まるで子どもが親に置いていかないでと必死に頼んでいるようでもある。
由梨亜は彼からそっと眼を背けた。
「それに、母を一人にはできないわ。もうすぐ退院が決まりそうなの。いつ何があるか判らないから、誰かが側にいてあげなくてはならない」
三鷹が勢い込んで言った。
「それなら、僕たちと一緒に住めば良い。何なら、同じマンションにお母さんの部屋を借りても良いんだよ。それとも、もっと広い場所に引っ越そうか」
短い沈黙が流れ、由梨亜はそれについては触れずに続けた。
「最後に一つだけ聞かせて。私の誕生日をどうして知っていたの?」
〝最後〟という言葉に衝撃を受けたのは三鷹だけではなかった。由梨亜もまた自らの言葉であるにも拘わらず、その短い言葉の持つ重みと厳しさに打ちのめされていた。
「調べたんだ」
沈んだ声が返ってくる。
「調べた? あなたは探偵のように、私の身辺について調べ上げたの? ああ、プリンスにはたくさんの部下がいるから、あなたが調べたんじゃなくて、秘書が調べたのね」
由梨亜の皮肉にも、最早、三鷹は反応しなかった。
「偽装結婚のことは俺たち以外は誰も知らない。秘書も君の存在は知らないさ」
呟きにも似た、力ない声。
「何故、君はそう決めつける? 俺の気持ちが君に判るんだ?」
「あなたと私ではあまりにも違いすぎるわ。たとえ真実のあなたがどうあれ、あなたは伝説のプリンスでありS物産の副社長、いずれは社長になる男なの。母子家庭でささやかな幸せをこの世の幸せだと思って育ってきた私には理解できない世界だし、あなたも私にすぐに飽きて、つまらない女だと思うようになる」
「そんなことはない! 何度も言ってるだろ。お袋と親父のような不幸を俺は二度と繰り返したくない。自分自身の人生に持ち込むつもりはないんだ。由梨亜となら、ささやかな幸せを得られると思ったし、君なら、そういうごく平均的な幸せを本当の幸せだと感じられるだけの純粋で素直な心を持っている。もちろん、それだけじゃない。俺の心が誰よりも何よりも君を求めてやまないんだ」
振り絞るような口調には果てのない懇願の響きがあった。まるで子どもが親に置いていかないでと必死に頼んでいるようでもある。
由梨亜は彼からそっと眼を背けた。
「それに、母を一人にはできないわ。もうすぐ退院が決まりそうなの。いつ何があるか判らないから、誰かが側にいてあげなくてはならない」
三鷹が勢い込んで言った。
「それなら、僕たちと一緒に住めば良い。何なら、同じマンションにお母さんの部屋を借りても良いんだよ。それとも、もっと広い場所に引っ越そうか」
短い沈黙が流れ、由梨亜はそれについては触れずに続けた。
「最後に一つだけ聞かせて。私の誕生日をどうして知っていたの?」
〝最後〟という言葉に衝撃を受けたのは三鷹だけではなかった。由梨亜もまた自らの言葉であるにも拘わらず、その短い言葉の持つ重みと厳しさに打ちのめされていた。
「調べたんだ」
沈んだ声が返ってくる。
「調べた? あなたは探偵のように、私の身辺について調べ上げたの? ああ、プリンスにはたくさんの部下がいるから、あなたが調べたんじゃなくて、秘書が調べたのね」
由梨亜の皮肉にも、最早、三鷹は反応しなかった。
「偽装結婚のことは俺たち以外は誰も知らない。秘書も君の存在は知らないさ」
呟きにも似た、力ない声。