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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第2章 ★A women meets a man ★

 別に、あの同僚が由梨亜に三行半を突きつけたわけではないのだから、あの女性に恨み辛みをぶつけても仕方ないのにと思う傍ら、訳知り顔で同情ぶった科白を口にされるのは耐えられなかった。
 どうせ会社を建て直すのなら、もう少し早く帰ってくれば良いのにと、果ては顔を見たこともない伝説のプリンスにまで腹立たしい気持ちを抱く有様で、由梨亜は自分という人間が余計に嫌になった。
 想いに沈んでいた由梨亜の耳を、メークの女性の華やいだ声が打った。
「城崎さん、とっても素敵。それこそ本物の花嫁さんみたいですよ」
 ハッと我に返ると、正面の大きな鏡にメークの女性の満面の笑みが映っている。
 ここは花嫁の控え室だ。メークは美容室の方でしたが、着替えはこちらに移動して行った。ドレスは着付け担当の女性が着せてくれたのだが、メークさんも殆ど側についていて、色々と手伝った。
 着付けをしてくれた四十代ほどの女性はひととおり花嫁の支度が終わると、控え室を出ていった。今日の世話役兼介添えは、このメークさんが行ってくれるという。
「もう、このまま本当に結婚しちゃっても良いくらいですよね」
 年齢を訊いたわけではないが、メークさんは恐らく由梨亜よりは若いのではないか。
 まだ二十代前半らしいのに、こうして自分一人で良い仕事をして、立派に生きている。
 それに比べて、自分は五年も勤めた会社をクビになった。何という違いだろう。
 由梨亜は急に自分が途方もなく惨めに思えた。自分には身につけた技術も何もないのだ。だから、会社を辞めさせられた途端に、こんな風に模擬披露宴の新婦役をやる羽目になる。
 これが悪いことだとは思わないが、こんなものは所詮、誰にでもできる仕事だ。まあ、これを仕事といえるならばだが。
「さ、行きましょう。花婿さんもお待ちかねですよ」
 馬鹿らしい。本物の披露宴でもあるまいに、何が花婿さんがお待ちかねです、だ。恐らく、新郎役の男性だって、そこら辺のフリーターか何か、ろくに仕事にありつけない暇な男に違いないのだ。

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