偽装結婚~代理花嫁の恋~
第2章 ★A women meets a man ★
判りきったことを真顔で言うメーク女性に少し腹を立て、由梨亜は彼女の後に続いた。蒼い深海をイメージさせる毛足の長い絨毯をかなり歩いた頃、とある扉の前で止まった。
「披露宴のできる大広間はこちらですが、チャペルは二階になるんです」
そこで、改めて由梨亜は思った。
そうなのだ、今日は披露宴だけでなく、式の方もやるのだと、あの田中氏が話していったけ。
生まれて初めてのウェディングドレスを纏った記念すべき日が何とすべて紛いものだとは! 偽物の結婚式、偽りの披露宴。
メイクさんがいっそう明るい声を上げる。
「あっ、広澤さん。来ましたよ、今日の花嫁さん」
二階のエレベーターを降りたすぐの場所に、新郎役の男性が待っていた。
見上げるほどの長身にすっきりと引き締まった身体は運動か何かで鍛えているのだろうか。ほどよく陽に灼けて精悍な印象を与えながらも、優美さを失っていない。
こんな美男(イケメン)がこの世の中にはいるのね。
由梨亜はただ茫然と男に見惚(みと)れているしかなかった。絶世の美男子なんて、今や死語に等しいかもしれないけれど、とにかく眼前の男は危険すぎるほど美しい男だった。
男の名前は広澤というらしい。どこかで聞いたことのあるような名字ではあるが、けして珍しいものではないから、それも仕方ないだろう。
「へぇ、凄げぇ、可愛い」
男が由梨亜を見て、いささか―かなり大仰にも聞こえる賛辞を口にしたので、由梨亜の興奮もすっと冷めた。
教訓。やたらと調子の良いことばかり口にする男には近寄るべからず。
「あ、こちらは今日の花嫁さん役の城崎由梨亜さん。で、あっちが新郎役の広(ひろ)澤(さわ)三鷹(みたか)さんです」
メークさんが向かい合った二人を交互に見ながら紹介する。
「うわあー、ラッキーですよね。皐月(さつき)さん、今日の花嫁さんがこんなに可愛い子だなんて、何でもっと早くに教えてくれなかったんですか?」
何と、この男、ヘアメークさんを名前でしかにも親しげに馴れ馴れしく呼んでいる。
教訓その二。女性と見れば、親しげに名前で話しかける愛想の良すぎる男には深入りするべからず。
「披露宴のできる大広間はこちらですが、チャペルは二階になるんです」
そこで、改めて由梨亜は思った。
そうなのだ、今日は披露宴だけでなく、式の方もやるのだと、あの田中氏が話していったけ。
生まれて初めてのウェディングドレスを纏った記念すべき日が何とすべて紛いものだとは! 偽物の結婚式、偽りの披露宴。
メイクさんがいっそう明るい声を上げる。
「あっ、広澤さん。来ましたよ、今日の花嫁さん」
二階のエレベーターを降りたすぐの場所に、新郎役の男性が待っていた。
見上げるほどの長身にすっきりと引き締まった身体は運動か何かで鍛えているのだろうか。ほどよく陽に灼けて精悍な印象を与えながらも、優美さを失っていない。
こんな美男(イケメン)がこの世の中にはいるのね。
由梨亜はただ茫然と男に見惚(みと)れているしかなかった。絶世の美男子なんて、今や死語に等しいかもしれないけれど、とにかく眼前の男は危険すぎるほど美しい男だった。
男の名前は広澤というらしい。どこかで聞いたことのあるような名字ではあるが、けして珍しいものではないから、それも仕方ないだろう。
「へぇ、凄げぇ、可愛い」
男が由梨亜を見て、いささか―かなり大仰にも聞こえる賛辞を口にしたので、由梨亜の興奮もすっと冷めた。
教訓。やたらと調子の良いことばかり口にする男には近寄るべからず。
「あ、こちらは今日の花嫁さん役の城崎由梨亜さん。で、あっちが新郎役の広(ひろ)澤(さわ)三鷹(みたか)さんです」
メークさんが向かい合った二人を交互に見ながら紹介する。
「うわあー、ラッキーですよね。皐月(さつき)さん、今日の花嫁さんがこんなに可愛い子だなんて、何でもっと早くに教えてくれなかったんですか?」
何と、この男、ヘアメークさんを名前でしかにも親しげに馴れ馴れしく呼んでいる。
教訓その二。女性と見れば、親しげに名前で話しかける愛想の良すぎる男には深入りするべからず。