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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第2章 ★A women meets a man ★

 由梨亜は冷めた眼で美しすぎるほど美しい男を観察した。
 この愛想の良さ、軽薄すぎるほどのなれなれしさから女の心をくすぐる会話テクニック、もしや、こいつの正体はホストか?
「よろしく、由梨亜ちゃん」
 おおー、何と初対面ですぐに由梨亜ちゃんときたか。この男、やっぱりホストだな。
 お生憎さま、この私を引っかけようなんて百年早いよ。それに、今は失業中で、ホストに入れあげる金なんて、どこにもないんだからね。
 由梨亜は無表情に顎を引いた。
「よろしくお願いします」
 顔合わせはそれで終わり、二人はすぐに式場となるチャベルに入った。
 けして広いとはいえない場内には、既に模擬披露宴を見ようと集まってきた参列者が座っている。今日の模擬披露宴を見学にきた人たちである。
 彼等は当然ながら、皆、カップルばかりだ。いずれも、近い中に挙式を控えた正真正銘の恋人たちなのだ。
 憧れを宿した表情で頬を染めて由梨亜を眺める若い女性たちの顔は幸せそうに輝いている。彼女たちの視線を意識した途端、由梨亜の胸をツキリと鋭い痛みが走った。
 彼女たちには本物の彼氏がちゃんといて、紛い物ではない本当の結婚式が待っている。それなのに、私はこうしてすべてが嘘で塗り固められた偽物の結婚式に出るしかない、しかも、わずかばかりの金儲けのために。
 偽物の花婿と腕を組み、深紅のバージンロードをゆっくりと進んでゆく。
 祭壇の前に立つと、小柄な白髪の牧師が控えていた。
「汝らはいかなるときも共に敬い合い、助け合うことを今、ここに誓いますか?」
 お決まりの聖書の誓言を牧師が口にし、同意を求めるようにまず新郎の方を見る。
「はい」
 広澤三鷹という青年は淀みなく、はっきりと応えた。その堂々とした物腰には、先刻のホストでは? と疑いたくなるような軽薄さは微塵もない。 
「あなたもまた誓いますか?」
 今度は牧師は花嫁役の由梨亜に問いかける。挙式の流れとしては、当然のことだ。
 はい、と言いかけて、由梨亜は思わず躊躇った。
 牧師の向こうには、ステンドガラス仕様になった聖母マリアが描かれている。

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