偽装結婚~代理花嫁の恋~
第2章 ★A women meets a man ★
由梨亜自身はさほどでもないけれど、母は個人的にキリスト教を信仰している。熱心なカトリックだ。由梨亜も幼い頃は週に一度、よく母に連れられて近くの教会まで礼拝に出かけていた。
なので、由梨亜の名前も実は聖母マリアにちなんだものだと、母が笑いながら教えてくれたこともある。
幼い御子イエス・キリストをその腕に抱き、やわらかな微笑を湛えている聖母の表情はどこか哀しげにも見える。やがて、愛し子を見舞うことになる哀しい運命を既にそのときから予感していたのだろうか。
今まで特別な感慨を持って聖母子像を眺めたことなどなかった。が、今、改めて見ていると、我が身がしでかしていることがいかにも馬鹿げたふるまいに思えてくる。
恐らく由梨亜の考えの方がおかしいのだ。模擬披露宴で代役の花嫁を務めるなんて、別に何ということはない。ただ、小学生が学芸会でお芝居の役を演じるのと同じではないか。
または大人であれば、金を得るための仕事だと割り切れば良いだけの話なのだ。
「新婦は誓いますか?」
心もち牧師の声が大きくなり、由梨亜はハッと我に返った。ふと視線を感じると、長身の男―広澤三鷹が物問いたげな眼で自分を見下ろしている。
「どうした、緊張したの? 気分でも悪くなった?」
三鷹が小声で囁くのに、由梨亜は弱々しい笑みを浮かべた。
「少しだけ」
応える間にも、聖母の哀しげな微笑が瞼に灼きついて離れず、思わず滲んだ涙がひと滴だけ頬を流れ落ちた。
思わず眼を潤ませた由梨亜を、三鷹が形の良い眼を見開いて見つめている。
刹那、由梨亜は自分に起こった出来事が俄には信じられなかった。グッと強い力で抱き寄せられたかと思うと、三鷹に唇を塞がれたのだ。
狼狽えて渾身の力で逞しい胸を押し返そうしたが、屈強な身体はビクともしない。
花婿花嫁の情熱的なキスに、参列者から低いどよめきが起こった。キスそのものはすぐに終わった。だが、由梨亜はそれどころではなかった。
パニック状態と烈しい衝撃の次には、途方もない怒りが湧き上がってきた。
なので、由梨亜の名前も実は聖母マリアにちなんだものだと、母が笑いながら教えてくれたこともある。
幼い御子イエス・キリストをその腕に抱き、やわらかな微笑を湛えている聖母の表情はどこか哀しげにも見える。やがて、愛し子を見舞うことになる哀しい運命を既にそのときから予感していたのだろうか。
今まで特別な感慨を持って聖母子像を眺めたことなどなかった。が、今、改めて見ていると、我が身がしでかしていることがいかにも馬鹿げたふるまいに思えてくる。
恐らく由梨亜の考えの方がおかしいのだ。模擬披露宴で代役の花嫁を務めるなんて、別に何ということはない。ただ、小学生が学芸会でお芝居の役を演じるのと同じではないか。
または大人であれば、金を得るための仕事だと割り切れば良いだけの話なのだ。
「新婦は誓いますか?」
心もち牧師の声が大きくなり、由梨亜はハッと我に返った。ふと視線を感じると、長身の男―広澤三鷹が物問いたげな眼で自分を見下ろしている。
「どうした、緊張したの? 気分でも悪くなった?」
三鷹が小声で囁くのに、由梨亜は弱々しい笑みを浮かべた。
「少しだけ」
応える間にも、聖母の哀しげな微笑が瞼に灼きついて離れず、思わず滲んだ涙がひと滴だけ頬を流れ落ちた。
思わず眼を潤ませた由梨亜を、三鷹が形の良い眼を見開いて見つめている。
刹那、由梨亜は自分に起こった出来事が俄には信じられなかった。グッと強い力で抱き寄せられたかと思うと、三鷹に唇を塞がれたのだ。
狼狽えて渾身の力で逞しい胸を押し返そうしたが、屈強な身体はビクともしない。
花婿花嫁の情熱的なキスに、参列者から低いどよめきが起こった。キスそのものはすぐに終わった。だが、由梨亜はそれどころではなかった。
パニック状態と烈しい衝撃の次には、途方もない怒りが湧き上がってきた。