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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第2章 ★A women meets a man ★

 由梨亜はキッと三鷹を見据えた。
「確かに魅力はある話ね。でも、折角だけれど、止めておくわ」
「どうして? 話も聞かないで断るのかい」
「だって、そんな話は誰がどう考えたって、まともじゃないでしょ。第一、きちんとした仕事なら、それだけの大金を積んで、身も知らずの私にいきなり頼むはずがないもの。きっと相当危ない話に決まってる。確かに私は失業したばかりでお金に困ってないわけじゃないけど、他人に言えないような仕事までして、お金儲けをしようとは考えてないの」
「残念だな、これで俺もやっと助けて貰えると思ったのに」
 言うべきことは言ったと踵を返そうとした由梨亜が振り返った。
「助ける? あなたが何か困ってるの?」
 迂闊にも由梨亜は気づいていない。お人好しの―困っている人間を見ると放っておけない性格を上手くこの男に利用されているのだとは欠片(かけら)ほども考えていないのだ。
「ああ、詳しい事情は話せないんだが、俺自身が今、花嫁の代役を探してるんだ。だから、このまま君と結婚して、君には花嫁のフリをして欲しい」
 三鷹の黒い瞳が真っすぐに射貫くように由梨亜を見つめている。
 ああ、まるで漆黒の闇に続いているような瞳。じいっと見入っていたら、魂ごと身体まで絡め取られてしまいそうな。
 思わず頷きそうになり、由梨亜はすんでのところで首を振った。
「申し訳ないけど、やっぱり私にはできないわ。誰か別の女(ひと)を捜してちょうだい」
 紛い物の花嫁になるのは、もう二度とご免だ。たとえお金儲けになるのだとしても、花嫁衣装を着るのは一生に一度だけ、心から愛する相手とめぐり逢い、結ばれるときだけにしたい。
 今日一日、模擬披露宴の花嫁役を務めて、しみじみと実感したことだ。
「条件で何か気に入らないところがある?」
 なおも食い下がる彼に、由梨亜は首を傾げた。
「偽物の花嫁になるのは、もう懲り懲り。今日で十分」
 三鷹の方は悪びれず憎らしいことを言う。、
「そう? 俺は楽しかったけどなぁ。ご馳走食べられたし、可愛い子とキスもできたし」
「あなた、また殴られたいの?」
 由梨亜が軽く睨むと、三鷹は大真面目に首を振った。

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