偽装結婚~代理花嫁の恋~
第3章 ★ 衝撃 ★
しかし、母が家におらず、その最中に叔母さんから電話がかかってきたということは、母が叔母さんと共にいるということに違いない。
「それがねぇ」
悦子叔母さんから話を聞くやいなや、由梨亜は取る物もとりあえず家を飛び出していた。自転車でもいけないことはなかったが、時間がもったいないので、タクシーを使った。普段は倹約家の彼女もこの際、そんなことを言ってはいられない。
―それがねぇ、家で急に発作を起こしてしまって、今はN病院にいるのよ。
叔母の科白が壊れたビデオのように際限なく耳奥でリフレインしている。
母はあろうことか、夕方、台所に立っているときに発作を起こして倒れたのだという。詳細は病院に着いて話すからと電話を切り、由梨亜は病院に急いだ。生命に別状はないと聞いてはいたものの、やはり、無事な顔を見るまでは安心はできない。
「運転手さん、もう少し急げませんか?」
交差点でまだ信号が赤になるには少し余裕をもって停車させた運転手に、由梨亜は噛みつくように言った。
支払いを済ませ、まろぶように車を降りると、予め叔母から聞いていた病室へと階段を二段飛ばしで駆け上がる。
倒れた母を見つけたのは近所の主婦であった。母よりは少し若いこの主婦は、以前、母と同じ保険会社で内勤をしていたことがあり、平素から親しく行き来していた。昼間に遊びに来ることもたまにはあったようだ。偶然、訪ねてきたところを倒れていた母を発見したというのだから、運が良いとしか言いようがない。
もし、酒木(さかき)さんが来ていなかったら、或いはそのまま―。考えて、由梨亜は嫌々をするように首を振った。
酒木さんのところにも後でお礼に行かなくちゃ。
由梨亜は丸顔の人の好さげなその主婦の顔を思い浮かべた。救急車で運ばれた母は一旦は救急病棟にいたが、容態が落ち着いたことから一般病棟に移ったという。
一般病棟の三階の一室に、母は入院していた。部屋の前には二人用のプレートがあり、母の名前がペンで記されている。どうやら現在のところは、母一人しか入っていないようである。
「それがねぇ」
悦子叔母さんから話を聞くやいなや、由梨亜は取る物もとりあえず家を飛び出していた。自転車でもいけないことはなかったが、時間がもったいないので、タクシーを使った。普段は倹約家の彼女もこの際、そんなことを言ってはいられない。
―それがねぇ、家で急に発作を起こしてしまって、今はN病院にいるのよ。
叔母の科白が壊れたビデオのように際限なく耳奥でリフレインしている。
母はあろうことか、夕方、台所に立っているときに発作を起こして倒れたのだという。詳細は病院に着いて話すからと電話を切り、由梨亜は病院に急いだ。生命に別状はないと聞いてはいたものの、やはり、無事な顔を見るまでは安心はできない。
「運転手さん、もう少し急げませんか?」
交差点でまだ信号が赤になるには少し余裕をもって停車させた運転手に、由梨亜は噛みつくように言った。
支払いを済ませ、まろぶように車を降りると、予め叔母から聞いていた病室へと階段を二段飛ばしで駆け上がる。
倒れた母を見つけたのは近所の主婦であった。母よりは少し若いこの主婦は、以前、母と同じ保険会社で内勤をしていたことがあり、平素から親しく行き来していた。昼間に遊びに来ることもたまにはあったようだ。偶然、訪ねてきたところを倒れていた母を発見したというのだから、運が良いとしか言いようがない。
もし、酒木(さかき)さんが来ていなかったら、或いはそのまま―。考えて、由梨亜は嫌々をするように首を振った。
酒木さんのところにも後でお礼に行かなくちゃ。
由梨亜は丸顔の人の好さげなその主婦の顔を思い浮かべた。救急車で運ばれた母は一旦は救急病棟にいたが、容態が落ち着いたことから一般病棟に移ったという。
一般病棟の三階の一室に、母は入院していた。部屋の前には二人用のプレートがあり、母の名前がペンで記されている。どうやら現在のところは、母一人しか入っていないようである。