偽装結婚~代理花嫁の恋~
第3章 ★ 衝撃 ★
母がいなくなったとしても、どれだけ辛くとも、誰にも身を預けて泣くこともできない。
離婚して良かったと言った母は、同時に、涙を見せる人、弱音を吐く人がいないのは辛かったとも言った。あれは恐らく母がこれまで過ごしてきた人生の真実に違いない。
自由を手にする代わりに、孤独と淋しさに耐えなければならないとは、女の人生とは何と儚く理不尽なものだろう。
悦子叔母さんのように、結婚生活は破綻していなくても、気難しい夫に怯えて暮らさなければならない―そんな人生もまた悲惨だ。
理想的なのは、やはり夫婦が良いときも悪いときも互いに助け合い、常に敬意と優しさをもって人生を歩める関係だろう。
しかし、そんな理想的な関係を築けるだなんて、結婚前に判るはずもない。誰でもこの男ならと思い、未来に明るい希望を託して結婚するはずだ。悦子叔母さんでさえ、結婚するまでは夫がここまで手に負えない男だとは思わなかっただろう。
そう考えてゆけば、たとえ偽装とはいえ、結婚生活というものは一度は経験してみるのも悪くはないかもしれない。しかも、あの広澤三鷹という男は、由梨亜がちゃんと約束を果たせば二百万も支払うと言っているのだ。
由梨亜と入れ替わりに、叔母さんは帰っていった。願わくば、叔母さんが叔父さんに嫌みを言われたりすることのないようにと祈らずにはいられなかった。
それから母の側につきっきりで、いつしか眠ってしまったようだった。朝方、誰かがか細い声で呼んでいるような気がして、由梨亜はハッと目覚めた。
「お母さん?」
相変わらず、心電図の音が室内に響いている。由梨亜はまだ眠気の残る眼をまたたかせ、母の貌に焦点を合わせた。
「済まないね、仕事帰りで疲れているだろうに」
自分の身よりも由梨亜を気遣う母に、胸が熱くなった。
「良いのよ。お母さんこそ、大変だったわね。でも、峠は越えたそうだから」
力づけるように微笑むと、母は眉根を寄せた。
「発作が起きたんだね?」
質問形ではあるが、確認にすぎないことは判っていた。幾ら隠そうとしても、自分の身体や健康は当人が最も理解しているものだ。
由梨亜は頷いた。
離婚して良かったと言った母は、同時に、涙を見せる人、弱音を吐く人がいないのは辛かったとも言った。あれは恐らく母がこれまで過ごしてきた人生の真実に違いない。
自由を手にする代わりに、孤独と淋しさに耐えなければならないとは、女の人生とは何と儚く理不尽なものだろう。
悦子叔母さんのように、結婚生活は破綻していなくても、気難しい夫に怯えて暮らさなければならない―そんな人生もまた悲惨だ。
理想的なのは、やはり夫婦が良いときも悪いときも互いに助け合い、常に敬意と優しさをもって人生を歩める関係だろう。
しかし、そんな理想的な関係を築けるだなんて、結婚前に判るはずもない。誰でもこの男ならと思い、未来に明るい希望を託して結婚するはずだ。悦子叔母さんでさえ、結婚するまでは夫がここまで手に負えない男だとは思わなかっただろう。
そう考えてゆけば、たとえ偽装とはいえ、結婚生活というものは一度は経験してみるのも悪くはないかもしれない。しかも、あの広澤三鷹という男は、由梨亜がちゃんと約束を果たせば二百万も支払うと言っているのだ。
由梨亜と入れ替わりに、叔母さんは帰っていった。願わくば、叔母さんが叔父さんに嫌みを言われたりすることのないようにと祈らずにはいられなかった。
それから母の側につきっきりで、いつしか眠ってしまったようだった。朝方、誰かがか細い声で呼んでいるような気がして、由梨亜はハッと目覚めた。
「お母さん?」
相変わらず、心電図の音が室内に響いている。由梨亜はまだ眠気の残る眼をまたたかせ、母の貌に焦点を合わせた。
「済まないね、仕事帰りで疲れているだろうに」
自分の身よりも由梨亜を気遣う母に、胸が熱くなった。
「良いのよ。お母さんこそ、大変だったわね。でも、峠は越えたそうだから」
力づけるように微笑むと、母は眉根を寄せた。
「発作が起きたんだね?」
質問形ではあるが、確認にすぎないことは判っていた。幾ら隠そうとしても、自分の身体や健康は当人が最も理解しているものだ。
由梨亜は頷いた。