偽装結婚~代理花嫁の恋~
第3章 ★ 衝撃 ★
「そうらしいの。私もまだ悦子叔母さんから聞いただけで、ドクターの話を聞いてないんだけど」
「えっちゃんにも申し訳ないことをした。また、孝幸さんがあの子に辛く当たってなければ良いんだけどねぇ」
「お母さん、今は他人(ひと)のことは考えないで。元気になることだけを考えなくちゃ」
「そうだね。由梨亜のためにも、まだまだ元気で生きていたいけど、後どれくらい生きられるかどうか。由梨亜、そんなことになる前に、ちゃんと死に場所を作らなくちゃ駄目だよ。私にはまだ、由梨亜がいる。だけど、もし私がいなくなったら、お前は一人になってしまうだろう。私はそう思うと、死のうに死にきれないよ」
「なにを気弱なこと言って。まだ五十歳でしょ。今の時代、その歳なら、再婚だってする人は大勢いるのに、死ぬなんて話が飛躍しすぎ」
母は気弱そうな笑みを浮かべた。
「冗談じゃない。私はもう二度と結婚なんてしないよ。由梨亜には悪いけれど、お前のお父さんと六年間連れ添って、男にも結婚生活にももうほとほと嫌気が差してるからね」
由梨亜は笑った。
「判ったわ。とにかく、もう少し眠って。今は安静が必要よ。私を一人にしないためにも、早く良くなって長生きしてくれなきゃ」
母も小さく笑って頷き、眼を閉じた。ほどなく安らかな寝息が聞こえてきて、由梨亜は熱いコーヒーを買いに一旦廊下に出た。
その日の午後、由梨亜はN駅近くのN銀行のキャッシュコーナーに寄った。午前中はN病院のドクターに逢い、母の病状について詳しく聞いた。N病院は母が係っている病院なので、医師とも既に顔見知りだ。
銀縁めがねの医師はとりたてて優しいということもなく、極めて淡々と患者に接する。医者特有の傲岸さも皆無とはいえないが、他のいかにも気難しげな医師に比べれば、マシな方だといえた。
かといって不親切でも愛想が悪いというわけでもなく、若いけれど腕は確かだと定評のある医師であった。
医師から聞いた話は悦子叔母の話と大方は一致していた。今回の峠は乗り越えたものの、今後、発作を繰り返す度に母の心臓は弱っていくだろうと、このときだけ医師は少し気の毒そうな口ぶりで告げた。
「えっちゃんにも申し訳ないことをした。また、孝幸さんがあの子に辛く当たってなければ良いんだけどねぇ」
「お母さん、今は他人(ひと)のことは考えないで。元気になることだけを考えなくちゃ」
「そうだね。由梨亜のためにも、まだまだ元気で生きていたいけど、後どれくらい生きられるかどうか。由梨亜、そんなことになる前に、ちゃんと死に場所を作らなくちゃ駄目だよ。私にはまだ、由梨亜がいる。だけど、もし私がいなくなったら、お前は一人になってしまうだろう。私はそう思うと、死のうに死にきれないよ」
「なにを気弱なこと言って。まだ五十歳でしょ。今の時代、その歳なら、再婚だってする人は大勢いるのに、死ぬなんて話が飛躍しすぎ」
母は気弱そうな笑みを浮かべた。
「冗談じゃない。私はもう二度と結婚なんてしないよ。由梨亜には悪いけれど、お前のお父さんと六年間連れ添って、男にも結婚生活にももうほとほと嫌気が差してるからね」
由梨亜は笑った。
「判ったわ。とにかく、もう少し眠って。今は安静が必要よ。私を一人にしないためにも、早く良くなって長生きしてくれなきゃ」
母も小さく笑って頷き、眼を閉じた。ほどなく安らかな寝息が聞こえてきて、由梨亜は熱いコーヒーを買いに一旦廊下に出た。
その日の午後、由梨亜はN駅近くのN銀行のキャッシュコーナーに寄った。午前中はN病院のドクターに逢い、母の病状について詳しく聞いた。N病院は母が係っている病院なので、医師とも既に顔見知りだ。
銀縁めがねの医師はとりたてて優しいということもなく、極めて淡々と患者に接する。医者特有の傲岸さも皆無とはいえないが、他のいかにも気難しげな医師に比べれば、マシな方だといえた。
かといって不親切でも愛想が悪いというわけでもなく、若いけれど腕は確かだと定評のある医師であった。
医師から聞いた話は悦子叔母の話と大方は一致していた。今回の峠は乗り越えたものの、今後、発作を繰り返す度に母の心臓は弱っていくだろうと、このときだけ医師は少し気の毒そうな口ぶりで告げた。