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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第3章 ★ 衝撃 ★

 Nホテルの廊下で見かけたような毛足の長い紅い絨毯を踏みしめて歩く。もう、引き返せない。あの部屋に足を踏み入れれば、後戻りはできないのだ。
 部屋の前に立ち、深呼吸して気持ちを落ち着けてから、インターフォンを押した。
「由梨亜ちゃん?」
 すぐにインターフォン越しに声が聞こえ、施錠の外れる音がしたかと思うと、重々しい装飾の施された扉が開いた。
「こんにちは」
 何とも場違いな挨拶であると判っていたけれど、他に言いようがない。
「本当に来てくれたんだね」
 まるで由梨亜が来ないと思っていたような口ぶりに、少しだけムッとした。
「私は約束を破ったりはしません」
「ああ、そうだね。俺もそうは思ってたけど、まあ、契約内容が契約内容だから」
 どんな事情があるのかは知らないが、偽装結婚などという馬鹿げたことを考えつき、更にそのために大金をポンと出そうという発想は、やはり由梨亜とは違う世界の人間なのだろう。大体、独身の若い男がどこに勤めているかは知らないが、こんな超高級マンションに住めるほどの稼ぎがあるというのも怪しい。
 真面目な会社員などと言っていたけれど、あれも嘘かハッタリに違いない。大方は大金持ちで時間と暇を持て余し、親の金でのうのうと遊んで暮らしている坊ちゃんだろう。
「これからは、ここが君と俺の愛の巣」
 またしても思わせぶりな言葉を囁くのに、由梨亜は毅然とした表情で言った。
「そういうふざけた物の言い方は止めてください」
 と、三鷹はいかにも心外そうな顔をした。
「何で? どうせ一緒に暮らすのなら、楽しく同棲した方が良いんじゃない?」 
 由梨亜はコホンとわざとらしく咳払いした。
「同棲じゃなくて、共同生活です」
 どうも同棲という表現には男女の秘め事めいた関係を匂わせているようで、この場合はふさわしくない。
 三鷹は笑った。
「全っく、どこまでお堅いのか。別に同棲でも何でも良いだろ、一緒に暮らすことに変わりはないんだから」
「けじめは大切です」
 少しでも隙を見せて、この男につけいらせてはいけない。

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