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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第3章 ★ 衝撃 ★

―基本的に君にはここに―家にいて貰うことになるけど、昼間は好きなように過ごして良いよ。お袋さんのところにも行かなきゃいけないだろうし、それは一向に構わない。ただ、俺の親父に俺が結婚していると思わせとくためにも、夜にはここに帰ってきて欲しいんだ。親父には、入籍も済ませた女とマンションで暮らしてると話してあるしね。
 どうやら、三鷹が〝結婚している〟と思わせたいのは彼の父親らしかった。それ以上は語らないので、詳しいことは知りようもなかったが、恐らくは父親へのカムフラージュとして、この偽装結婚を思いついたといたところだろう。
 その話には由梨亜も異存はない。元々、〝結婚〟生活を続けることが契約条件だったのだ。幸いにも母は夜通し付き添いが必要なわけでもなく、万が一何かあれば、携帯の方に病院から連絡があるはずだ。
 このマンションは病院にも近く、徒歩で駆けつけても、ものの数分とかからない。
 結局、その日、三鷹が帰ってきたのは午後八時を回った頃だった。この結婚はあくまでも表向きだけだから、主婦のような仕事はしなくて良いのだと言われていたから、言葉どおり何もしなかった。
 帰ってきた三鷹に何と言えば良いか迷ったが、思いつかなくて〝お帰りなさい〟と言うと、三鷹は露骨に嬉しげに顔を輝かせた。
「ただいま」
「遅かったんですね」
 これではまるで本当の新婚妻のようだ。
「うん? 仕事が少し立て込んでてね。今日中に片付けなければいけない案件が幾つかあったものだから」
 由梨亜は吹き出した。
「別に仕事してるっていうか、真面目な会社員のふりなんて、しなくても良いのに」
 三鷹が傷ついたような顔で由梨亜を見る。
「酷いよ、君は。俺が幾ら真面目な会社員だって主張しても、まるで信じちゃくれないんだから」
「第一、そんなラフな格好で会社員のはずがありません」
 三鷹は由梨亜の指摘に、改めて自分の服装を見た。模擬披露宴の日に着ていたのとそっくりそのまま、パーカーつきのTシャツと履き古したジーンズだ。
「ま、言われてみれば、そうかもね」
 三鷹は笑いながら頷いた。

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