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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第3章 ★ 衝撃 ★

 恐らく、このソファ一つだけで、由梨亜の家にある古ぼけた家具すべてを合わせたくらいの値段がするのだろう。もしかしたら、それよりも更に値打ちがあるかもしれない。
 彼と自分では、あまりに住む世界が違いすぎる。しばらくは病院の売店で買い求めた女性ファッション誌をぱらぱらと捲っていた。
 仕事をすると言っていたけれど、本当なのだろうか。その点にについてはまだ半信半疑で、由梨亜は立ち上がると、そっと三鷹の仕事部屋だと言っていた部屋を覗いた。ここは先刻、ちゃんと中に入って見学?している。
 他の部屋に比べれば多少、狭いが、それでも由梨亜が自宅で使っていた私室よりは広い。大きなデスクは重厚な造りで、オーク材が何かだろう。その上は整然としており、大きなデスクトップパソコンと傍らにコンパクトなノートパソコンが並んで置いてある。
 机の左側の壁が作り付けの本棚になっていて、革表紙の本やら図鑑らしいものやらがこれも隙間なく整頓されて並んでいた。
 デスクトップには通信機がアクセサリとしてついており、インターコムまである。愕いたことに、三鷹はインターコムをつけ、何やら話していた。
 すべては聞き取れないが、時々、由梨亜にも聞こえてくるのは全部、英語である。
 何を喋っているのかは正直、由梨亜には判らない。英検は三級止まりなのだ。
 が、三鷹がかなり厳しい表情をしているのであろうことは想像できた。声が由梨亜と話しているときのものとは全然違う。もっと低く、感じとしては誰かに何かを指示しているようなイメージだ。
 彼は流ちょうな英語を操りながらも、合間にはパソコンの画面を覗き、素早いタイピングでキーボードを叩いている。
 そこで由梨亜はその場から離れた。ドアが細く開いているから、室内は殆ど丸見えだ。由梨亜の立っている場所からは、三鷹の後ろ姿が見える格好になる。
 が、幾ら彼が気づいていないとはいえ、他人のプライベートを盗み見するような真似は感心しない。それが嫌というほど判っていながら、自分の知らない三鷹をもっと知りたいと思う自分に気づき、由梨亜は自分でも愕いていた。

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