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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第1章 ★ 突然の辞職勧告 ★

 思えば、それも偶然だったのか、運命だったのか。由梨亜は拾い上げた紙を手に取り、ゆっくりと読んだ。
―模擬披露宴に参加して下さる新郎新婦を募集しています!! 年齢 新郎は三十歳くらい、新婦は二十七歳くらいまで 未婚・既婚問いません。 独身女性の貴女、想い出づくりにいかがですか? 素敵なドレスの試着、ご馳走の食べ放題!
  Nホテル 連絡先 担当 田中まで
 
 担当者の名前の後に携帯番号が記されている。由梨亜は大きな溜息を吐いた。
 このチラシの年齢制限でいけば、由梨亜はギリギリで花嫁役の資格があるということだ。今、二十七。来月の誕生日が来れば、二十八歳になる。
 賞味期限も目前ってところね。
 由梨亜は少しだけ自嘲気味に考える。
 由梨亜の母が丁度、適齢期だった頃には〝女の賞味期限は二十四歳〟という言葉が当たり前だったらしい。何故かというと、クリスマスの夜までは定額で売られていたクリスマスケーキが当夜を過ぎると、半値で売りさばかれることになる。
 その二十四日と二十四歳をかけて、女の賞味期限説が出たという。
 由梨亜からすれば、実に馬鹿馬鹿しい―どころか、女性の尊厳を踏みにじる言葉だと思わずにはいられない。結婚するのにふさわしい年齢というのは確かにあるかもしれない。だが、それは所詮、有り体にいってしまえば、生物学的に見た年齢だ。もっと踏み込めば、繁殖能力が最も高い時期に結婚すれば、それだけ後に子孫を残せる可能性が高くなるといえる。
 だからこそ、その繁殖能力の高い時期に結婚しろと言うことなのだろう。
 しかし、母の時代と異なり、今は違う。二十代前半で早々と結婚、出産を経験する女性もいれば、三十代まで自分の人生を愉しみ、四十歳になってから結婚し母親となる人もいる。どころか、結婚せず、シングルライフを貫くのも女性の一つの生き方として認められている時代だ。
 価値観が多様化して、何が正しいとか正しくないとか決めつけることはできなくなった。それでも、まだ由梨亜の母親などは、
―女は嫁いでこそ一人前、女は死に場所を作るためには、嫁に行かなきゃ駄目よ。
 と、顔を見る度にせっついてくる。
 その度に、正直、煩いなと思ってしまう由梨亜である。

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