偽装結婚~代理花嫁の恋~
第3章 ★ 衝撃 ★
翌朝は惨憺たるものだった。
まず、ひと晩中泣いたので、由梨亜の眼は真っ赤に腫れ上がり充血した。キッチンのテーブルに向かい合って座っても、三鷹も由梨亜も一切、何も話そうとせず、気詰まりな沈黙が重たく二人にのしかかった。
それでも、由梨亜は冷蔵庫にあった食パンを焼き、コーヒーメーカーをセットしてコーヒーを淹れた。卵があったので、スクランブルにレタスを添えて並べた。
「あの―」
「実は」
二人がどちらからもとなく声を出したのが、期せずしてほぼ同時のことになった。
「君から話してくれ」
そう言われたが、由梨亜は黙って首を振った。
三鷹は仕方なさそうに小さく息を吐きだし、重い口を開いた。
「昨夜のことだけど」
「―私、三鷹さんのことを信じていました。見かけは良い加減そうに見えるけれど、信頼できる人だろうと思うから、偽装結婚の話もお受けしたんです」
「俺のしたことは、弁解のしようもない。だが、これだけは言わせてくれ。俺は君を邪な下心があって連れてきたわけではないんだ。確かに今まで俺が付き合ってきた女の子のタイプとは違うし、物珍しさはあった。でも、本当に良い子みたいだったから、どうせ一緒に過ごすのなら、君のような子が側にいてくれれば楽しいだろうなと思った。これが俺の本音だよ」
「私―」
由梨亜は言いかけ、言葉を選びあぐねて躊躇した。
「三鷹さんにかなり失望しました。でも、約束は果たします。だから、三鷹さんも約束は最後までちゃんと守ってください」
三鷹はしばらく黙って由梨亜を見つめていた。男にしては整いすぎていると思うほど綺麗な面には何の感情も浮かんではいない。
やがて、小さな吐息が洩れた。
「良かった、君が出ていくというんじゃないかと実は戦々恐々だったんだよ。それに、俺は出て行かれても仕方のないことをしたしね」
先刻まで何の表情も宿していなかった彼の端正な顔に今はあからさまな安堵がほの見えた。恐らく、三鷹はそこまで代役の花嫁を必要としている―父親の手前、偽装結婚を装う必要に迫られているのだろう。
まず、ひと晩中泣いたので、由梨亜の眼は真っ赤に腫れ上がり充血した。キッチンのテーブルに向かい合って座っても、三鷹も由梨亜も一切、何も話そうとせず、気詰まりな沈黙が重たく二人にのしかかった。
それでも、由梨亜は冷蔵庫にあった食パンを焼き、コーヒーメーカーをセットしてコーヒーを淹れた。卵があったので、スクランブルにレタスを添えて並べた。
「あの―」
「実は」
二人がどちらからもとなく声を出したのが、期せずしてほぼ同時のことになった。
「君から話してくれ」
そう言われたが、由梨亜は黙って首を振った。
三鷹は仕方なさそうに小さく息を吐きだし、重い口を開いた。
「昨夜のことだけど」
「―私、三鷹さんのことを信じていました。見かけは良い加減そうに見えるけれど、信頼できる人だろうと思うから、偽装結婚の話もお受けしたんです」
「俺のしたことは、弁解のしようもない。だが、これだけは言わせてくれ。俺は君を邪な下心があって連れてきたわけではないんだ。確かに今まで俺が付き合ってきた女の子のタイプとは違うし、物珍しさはあった。でも、本当に良い子みたいだったから、どうせ一緒に過ごすのなら、君のような子が側にいてくれれば楽しいだろうなと思った。これが俺の本音だよ」
「私―」
由梨亜は言いかけ、言葉を選びあぐねて躊躇した。
「三鷹さんにかなり失望しました。でも、約束は果たします。だから、三鷹さんも約束は最後までちゃんと守ってください」
三鷹はしばらく黙って由梨亜を見つめていた。男にしては整いすぎていると思うほど綺麗な面には何の感情も浮かんではいない。
やがて、小さな吐息が洩れた。
「良かった、君が出ていくというんじゃないかと実は戦々恐々だったんだよ。それに、俺は出て行かれても仕方のないことをしたしね」
先刻まで何の表情も宿していなかった彼の端正な顔に今はあからさまな安堵がほの見えた。恐らく、三鷹はそこまで代役の花嫁を必要としている―父親の手前、偽装結婚を装う必要に迫られているのだろう。