偽装結婚~代理花嫁の恋~
第4章 ★惹かれ合う心たち★
「そうね。会社に行く前に、ちょっとお母さんの顔を見とこうと思って寄ったの」
立ち上がりながら言うと、母が窺うような視線を向けた。
「そんなに毎日、顔見せにこなくて良いんだよ。そりゃ、私は淋しいけれど、あんたが疲れてしまったら元も子もないだろ。それでなくとも、会社の方でも色々とあるんだろうし」
思わせぶりな言葉に、思わずドキリとした。
「な、なに?」
母が気遣わしげに由梨亜を見ている。
「昨夜、泣いたでしょ」
「えっ」
由梨亜が眼を押さえると、母が笑いながら言った。
「これでも母親だからね。子どものちょっとした変化はすぐに判るんだよ。眼が赤くなってるし、腫れてるじゃないの」
由梨亜は殊更明るく微笑んだ。
「ちょっとね、ミスってしまって。上司から厳しくお説教されたのよ」
母は頷いた。
「大方、そんなところだろうね」
ところでと、母が逡巡を見せてから言った。
「その後、あの男(ひと)とはどうなってるの?」
「あの男って?」
刹那、三鷹の顔が瞼に浮かび、由梨亜は慌ててその面影を追い払った。母は偽装結婚のことなんて知らないのだ。
「ええと、三村浩二さんとかいったっけ。あんたがお付き合いしてるって人」
浩二のことは母にそれとなく話してはあった。元々、あまり隠し事はしない母子関係なのだ。
「ああ、三村さんね」
由梨亜は浩二をつい最近まで〝三村君〟と親しみを込めて呼んでいたのがもう随分昔のことのように思った。
「あの男はもう会社にはいないのよ」
「そうなのかい?」
今度は母が愕く番である。
「うちの会社も色々とあるでしょ。今は少し持ち直してきたけど、かなり経営悪化が深刻化してたのよ。だから、三村さんは早々に見切りを付けて辞めたの。自分で会社を作ったって」
「それで、お前とはどうなの?」
母の問いたいことは判っている。由梨亜はまだかすかに疼く心をひた隠した。
「別にどうってことはないわよ。三村さんには新しい仕事場で恋人もできたって聞いてるわ。職場も違うことだし、これからはもう逢うこともないんじゃないかしら」
立ち上がりながら言うと、母が窺うような視線を向けた。
「そんなに毎日、顔見せにこなくて良いんだよ。そりゃ、私は淋しいけれど、あんたが疲れてしまったら元も子もないだろ。それでなくとも、会社の方でも色々とあるんだろうし」
思わせぶりな言葉に、思わずドキリとした。
「な、なに?」
母が気遣わしげに由梨亜を見ている。
「昨夜、泣いたでしょ」
「えっ」
由梨亜が眼を押さえると、母が笑いながら言った。
「これでも母親だからね。子どものちょっとした変化はすぐに判るんだよ。眼が赤くなってるし、腫れてるじゃないの」
由梨亜は殊更明るく微笑んだ。
「ちょっとね、ミスってしまって。上司から厳しくお説教されたのよ」
母は頷いた。
「大方、そんなところだろうね」
ところでと、母が逡巡を見せてから言った。
「その後、あの男(ひと)とはどうなってるの?」
「あの男って?」
刹那、三鷹の顔が瞼に浮かび、由梨亜は慌ててその面影を追い払った。母は偽装結婚のことなんて知らないのだ。
「ええと、三村浩二さんとかいったっけ。あんたがお付き合いしてるって人」
浩二のことは母にそれとなく話してはあった。元々、あまり隠し事はしない母子関係なのだ。
「ああ、三村さんね」
由梨亜は浩二をつい最近まで〝三村君〟と親しみを込めて呼んでいたのがもう随分昔のことのように思った。
「あの男はもう会社にはいないのよ」
「そうなのかい?」
今度は母が愕く番である。
「うちの会社も色々とあるでしょ。今は少し持ち直してきたけど、かなり経営悪化が深刻化してたのよ。だから、三村さんは早々に見切りを付けて辞めたの。自分で会社を作ったって」
「それで、お前とはどうなの?」
母の問いたいことは判っている。由梨亜はまだかすかに疼く心をひた隠した。
「別にどうってことはないわよ。三村さんには新しい仕事場で恋人もできたって聞いてるわ。職場も違うことだし、これからはもう逢うこともないんじゃないかしら」