偽装結婚~代理花嫁の恋~
第4章 ★惹かれ合う心たち★
意識が水底(みなそこ)から急速に浮上するような感覚があり、ゆっくりと眼が覚めてくる。うーんと両手を持ち上げて伸びをした時、初めて同じソファに誰かが座っているのに気づいた。
「―三鷹さんっ」
由梨亜は慌てて飛び起きた。
三鷹が掛けてくれたのか、綿の毛布が跳ね起きた勢いでフローリングの床に落ちる。
「おはよう」
三鷹がにっこりと笑う。
「あの、いつからそこに?」
確かに由梨亜が眠り込んでしまう前には、彼はまだいなかった。ということは、由梨亜が熟睡している最中に帰宅したということだ。
「帰ってきたのなら、起こしてくれれば良いのに」
恨めしげに言うと、三鷹が含み笑った。
「よく眠っていたようだから、起こさなかったんだよ。それに、あんまり可愛い寝顔で眠っていたし、起こすのも勿体ないと思ってさ」
「それで、ずっとそこにいたの?」
そう、と、彼はしれっと言った。
「君の寝顔を独り占めにできるチャンスなんて、そうそうあるわけじゃない」
「忘れ物か何かを取りに帰ったんですか?」
由梨亜の問いに、彼は笑い出した。
「違うよ。可愛い奥さんの顔を見に帰ってきたの」
もう昨晩のことはなかったかのように、見事なまでにいつもの彼に戻っている。三鷹が拘っていないのなら、由梨亜だけがいつまでも悩んでいるのも馬鹿げた話だ。
これで良いのだと思いながらも、心のどこかで薄ら寒い風が吹き抜けるようだ。彼が〝可愛い〟を連発するのは、ほんのお世辞。人は心にもないことは平然と幾らでもまくしたてられるものだ。逆に、心の底にある真実はなかなか口に出せない。つまり、三鷹にとって、由梨亜は所詮はその程度の、からかいがいのある遊び相手でしかないのだろう。
「心にもないことは言わないで下さいね?」
由梨亜は立ち上がった。リビングの時計はもう十二時近かった。かれかれ二時間近く眠っていたことになる。だが、そのお陰で、瞼の重さや腫れも取れて、心も幾分かは軽やかになっていた。
「何か作りましょうか?」
とは言ったものの、やたらと大きな冷蔵庫は殆ど空で、あるのは食パンと牛乳、卵、バターくらいのものだ。
「―三鷹さんっ」
由梨亜は慌てて飛び起きた。
三鷹が掛けてくれたのか、綿の毛布が跳ね起きた勢いでフローリングの床に落ちる。
「おはよう」
三鷹がにっこりと笑う。
「あの、いつからそこに?」
確かに由梨亜が眠り込んでしまう前には、彼はまだいなかった。ということは、由梨亜が熟睡している最中に帰宅したということだ。
「帰ってきたのなら、起こしてくれれば良いのに」
恨めしげに言うと、三鷹が含み笑った。
「よく眠っていたようだから、起こさなかったんだよ。それに、あんまり可愛い寝顔で眠っていたし、起こすのも勿体ないと思ってさ」
「それで、ずっとそこにいたの?」
そう、と、彼はしれっと言った。
「君の寝顔を独り占めにできるチャンスなんて、そうそうあるわけじゃない」
「忘れ物か何かを取りに帰ったんですか?」
由梨亜の問いに、彼は笑い出した。
「違うよ。可愛い奥さんの顔を見に帰ってきたの」
もう昨晩のことはなかったかのように、見事なまでにいつもの彼に戻っている。三鷹が拘っていないのなら、由梨亜だけがいつまでも悩んでいるのも馬鹿げた話だ。
これで良いのだと思いながらも、心のどこかで薄ら寒い風が吹き抜けるようだ。彼が〝可愛い〟を連発するのは、ほんのお世辞。人は心にもないことは平然と幾らでもまくしたてられるものだ。逆に、心の底にある真実はなかなか口に出せない。つまり、三鷹にとって、由梨亜は所詮はその程度の、からかいがいのある遊び相手でしかないのだろう。
「心にもないことは言わないで下さいね?」
由梨亜は立ち上がった。リビングの時計はもう十二時近かった。かれかれ二時間近く眠っていたことになる。だが、そのお陰で、瞼の重さや腫れも取れて、心も幾分かは軽やかになっていた。
「何か作りましょうか?」
とは言ったものの、やたらと大きな冷蔵庫は殆ど空で、あるのは食パンと牛乳、卵、バターくらいのものだ。