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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第4章 ★惹かれ合う心たち★

 真っ白なTシャツには〝イッツ・スモール・ワールド〟と大胆にプリントされ、地球のイラストがついている。その下は相変わらずの古びたジーンズ。このいでたちで、真面目な会社員だと名乗る方が怪しすぎる。
「三鷹さんの会社って、よほど寛容なのね。幾らクールビズだって、その格好はラフすぎるでしょうに」
「こいつは一本取られたな」
 三鷹は怒りもせず、笑っているだけだ。
 ふと彼が表情を翳らせた。
「ところで、君はS物産の社員だったと言ってたね」
「ええ、それが何か?」
 由梨亜を見つめる三鷹の表情はいつになく真剣である。
「あそこをクビになった社員はどれくらい、いるだろうか」
「さあ―。それは私にも見当がつかないけど、経営悪化が眼に見えてからは積極的に会社の方が首切りしてましたから、結構な数になると思いますよ。興味があるのなら、人事課に電話でもすれば判るんじゃないかな」
「これから首切りは一切しないとしても、既に大勢の社員が犠牲になっている。とすれば、彼等を救済する方法はあるだろうか」
 由梨亜は吹き出した。
「別に三鷹さんが考えても、仕方ないでしょう」
「もし、由梨亜ちゃんが会社側の人間だったら、どうする?」
 意外な話をふられ、由梨亜は眼を見開く。
「私? そうだな、私なら、クビにした人の中でもう一度、S物産で働きたいと思う人がいるなら、その人たちを再雇用するとか。または、ちゃんと次の仕事が見つかっている人は別としても、まだ見つからない人には一定の生活保障できるだけの一時金を給付する? 場合によっては、次の職場を斡旋してあげるっていうのもありかも」
「なるほど」
 三鷹は今はいつものように茶化しもせず、由梨亜の話に熱心に耳を傾けた。
「どれも考えてみる価値はありそうだね。君は何で、クビになったんだ?」
 由梨亜は頬を膨らませた。
「当たり前すぎることを訊かないで。役立たずだから、会社から見切りをつけられたんですよ」
「そんなはずはない。君の今し方の失業社員救済の対策案はなかなか先見の明のあるものだったよ。解雇するには惜しい人材のはずだ」

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