偽装結婚~代理花嫁の恋~
第4章 ★惹かれ合う心たち★
「とにかく、そいつが今、ここにいたら、ぶん殴ってやりたいよ。由梨亜ちゃんみたいに良い子をふるなんて、馬鹿なヤツだ」
三鷹は剣呑な様子で続けた。
「そいつはまだS物産にいるの?」
「いいえ、先刻の三鷹さんの持論じゃないけど、彼は先見の明のある人だから、先に辞めました。一時期、自分から退職すれば、退職金を上乗せしてくれるって話があって、そのときにさっさと貰えるものは貰って辞めたの。今は小さい会社を興して、新しい彼女は事務として雇った若い子だって」
「つくづく女を見る眼がないヤツだな、そついは」
三鷹はまだ一人で怒っている。
「慰めでも嬉しいです、ありがとう」
由梨亜は微笑むと、既に空になったプレートを重ねシンクにまで運び始めた。
「手伝おうか?」
「大丈夫。それよりも、三鷹さん、会社に行かなくて良いんですか?」
多少の皮肉を込めても、彼は平然と受け流している。腕時計を覗きながら、彼はぼやいた。
「そろそろ昼休みも終わりだな。名残惜しいけど、行くとするか」
「で、一体、何で帰ってきたんですか? もしかして本当に忘れ物?」
三鷹が情けなさそうな声になった。
「だから何度も言ってるだろ。君の顔を見に帰ったんだよ、由梨亜ちゃん」
「ふふ、冗談がすぎるわ」
由梨亜は笑いながら洗いものに取りかかった。
「全っく、俺はよほど君に信用がないんだな。何を言ったって、ろくに信じちゃくれないんだから」
三鷹が不満げに口を尖らせる。
流しの水を出しっ放しにしていたせいか、由梨亜は彼が足音を忍ばせて近づいてきたのにも気づかなかった。
ふいに背後から抱きしめられて、由梨亜は泡だらけの食器を落としそうになる。
「三鷹さん、約束がちがう―」
「これくらいは許してくれ」
由梨亜の黒髪に顎を埋め、三鷹はしばらく髪の香りを嗅いでいるかのように動かなかった。やがて、彼は由梨亜の髪に軽い口づけを落とし、静かに立ち去っていった。
三鷹は剣呑な様子で続けた。
「そいつはまだS物産にいるの?」
「いいえ、先刻の三鷹さんの持論じゃないけど、彼は先見の明のある人だから、先に辞めました。一時期、自分から退職すれば、退職金を上乗せしてくれるって話があって、そのときにさっさと貰えるものは貰って辞めたの。今は小さい会社を興して、新しい彼女は事務として雇った若い子だって」
「つくづく女を見る眼がないヤツだな、そついは」
三鷹はまだ一人で怒っている。
「慰めでも嬉しいです、ありがとう」
由梨亜は微笑むと、既に空になったプレートを重ねシンクにまで運び始めた。
「手伝おうか?」
「大丈夫。それよりも、三鷹さん、会社に行かなくて良いんですか?」
多少の皮肉を込めても、彼は平然と受け流している。腕時計を覗きながら、彼はぼやいた。
「そろそろ昼休みも終わりだな。名残惜しいけど、行くとするか」
「で、一体、何で帰ってきたんですか? もしかして本当に忘れ物?」
三鷹が情けなさそうな声になった。
「だから何度も言ってるだろ。君の顔を見に帰ったんだよ、由梨亜ちゃん」
「ふふ、冗談がすぎるわ」
由梨亜は笑いながら洗いものに取りかかった。
「全っく、俺はよほど君に信用がないんだな。何を言ったって、ろくに信じちゃくれないんだから」
三鷹が不満げに口を尖らせる。
流しの水を出しっ放しにしていたせいか、由梨亜は彼が足音を忍ばせて近づいてきたのにも気づかなかった。
ふいに背後から抱きしめられて、由梨亜は泡だらけの食器を落としそうになる。
「三鷹さん、約束がちがう―」
「これくらいは許してくれ」
由梨亜の黒髪に顎を埋め、三鷹はしばらく髪の香りを嗅いでいるかのように動かなかった。やがて、彼は由梨亜の髪に軽い口づけを落とし、静かに立ち去っていった。