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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第4章 ★惹かれ合う心たち★

 だが、遅かれ早かれ、別離はやがて来る。三鷹にとって代理花嫁が必要でなくなった時、更には母がここを退院するときが終わりの瞬間なのだ。
 いずれ離れなければならないのなら、好きになってしまう前に離れた方が心の傷も少なくて済むだろう。
 想いに沈む由梨亜の耳を、母の声が打った。
「由梨亜、私のために無理をする必要はないんだよ」
 由梨亜はハッと現(うつつ)に返る。いつしか窓越しにひろがる空はすべて夜の色に塗り尽くされていた。明かりの数はますます増え、町のイルミネーションがあたかも光のまばゆい帯のように見える。
「由梨亜の辛そうな表情を見るのは私も辛いから」
 由梨亜はできるだけ明るいものに見えることを祈りながら、微笑んだ。
「もちろんよ。私もお母さんに心配はかけたくないもの」
 その後、しばらく話をしている中に、病院の食事が運ばれてきた。母が夕食の半ばまで食べたのを見届けてから、由梨亜は〝おやすみなさい〟を言って病室を後にしたのだった。

 由梨亜がマンションに戻ってきた時、既に三鷹は先に帰っていた。
「どこに行っていたんだ?」
 顔を見るなり訊かれた。三つや四つの幼児でもあるまいに、いちいち外出先や目的まで三鷹に報告する必要があるのだろうか。
 疑問に思ったものの、この場で言い合う気力もないほど疲れ切っている。由梨亜は力ない声で返した。
「病院。母の見舞いに行っていたの」
 三鷹はリビングで薄い冊子を捲っている。それが仕事関係の資料であることは、由梨亜にもすぐに判った。だてにS物産の営業部にいたわけではない。ただ、全文が英語らしいので、何に関しての資料なのかは判らない。
 所々に円グラフや棒グラフ、商品の写真と思しき画像が挿入されている。
 恐らく彼の主張は正しいのだろう。彼はどこまでも〝真面目な会社員〟なのだ。
 この男はたくさんの謎を持ちすぎている。由梨亜の知らない、もう一つの顔―いかにも今風の若者好みの派手なロゴ入りTシャツとジーンズという姿と英字がびっしりと並ぶ資料は全く不似合いな代物だ。

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