偽装結婚~代理花嫁の恋~
第1章 ★ 突然の辞職勧告 ★
すると、母は微笑んで言った。
―何を今更。由梨亜、これだけは憶えておきなさい。人間には苦労を買ってでも、引き替えにできないもの、譲れない大切なものがあるんだよ。私にとっては、由梨亜は、まさにその譲れない大切なものだった。由梨亜がいてくれたからこそ、私はここまで生きてこられたし、仕事で辛いときがあったときも、あなたの笑顔を見たら、涙も引っ込んだ。
もしかしたら、母がしきりに結婚、結婚という理由もその辺りにあるのかもしれない。
苦労を買ってでも、引き替えにできないもの、譲れない大切なもの。
母はよく言う。
―由梨亜のいない人生なんて、私には考えられなかった。
母にとって、由梨亜は何をもってしても引き替えにできない大切なものであった。そう直截に言われると、照れくさいような嬉しいような気持ちになる。
確かに、そんな何ものにも代え難いほどの存在を得られるとすれば、人は幸せだろう。人によって、その大切なものはそれぞれ異なるだろうが、母は我が娘をその大切なものと見なしていたのだ。だから、人生の多くの労苦も乗り越えられたと。
母の病が判った時、由梨亜はまだ高校生だった。だから、すぐに仕事を辞めるわけにもいかず、仕事の量を減らして貰うことで何とか乗り切った。でも、それにはやはり正社員として雇うことはできないからと会社からいわれ、やむなくパート勤務に切り替えたのだ。
そして、由梨亜が大学を卒業と同時に、母は仕事を辞めた。由梨亜は現在、母と共に小さな家に住んでいるが、大学もそこから通った。もちろん、家といっても、借家である。小さなアパートから築十五年の小さな住宅に引っ越してきたのは、由梨亜が中二のときのことだ。
狭いながらも庭がついており、前の持ち主が丹精していたと見え、四季の花々が植わっている。大学を卒業した由梨亜が今度は働いて家計を支え、母は家で食事や洗濯を担当することになった。
駄目だ、やはり、母には会社をクビになったことは言えない。
今は心臓の方は落ち着いているけれど、できるだけ精神的にも負担をかけない方が良いと医師も言っていたではないか。
―何を今更。由梨亜、これだけは憶えておきなさい。人間には苦労を買ってでも、引き替えにできないもの、譲れない大切なものがあるんだよ。私にとっては、由梨亜は、まさにその譲れない大切なものだった。由梨亜がいてくれたからこそ、私はここまで生きてこられたし、仕事で辛いときがあったときも、あなたの笑顔を見たら、涙も引っ込んだ。
もしかしたら、母がしきりに結婚、結婚という理由もその辺りにあるのかもしれない。
苦労を買ってでも、引き替えにできないもの、譲れない大切なもの。
母はよく言う。
―由梨亜のいない人生なんて、私には考えられなかった。
母にとって、由梨亜は何をもってしても引き替えにできない大切なものであった。そう直截に言われると、照れくさいような嬉しいような気持ちになる。
確かに、そんな何ものにも代え難いほどの存在を得られるとすれば、人は幸せだろう。人によって、その大切なものはそれぞれ異なるだろうが、母は我が娘をその大切なものと見なしていたのだ。だから、人生の多くの労苦も乗り越えられたと。
母の病が判った時、由梨亜はまだ高校生だった。だから、すぐに仕事を辞めるわけにもいかず、仕事の量を減らして貰うことで何とか乗り切った。でも、それにはやはり正社員として雇うことはできないからと会社からいわれ、やむなくパート勤務に切り替えたのだ。
そして、由梨亜が大学を卒業と同時に、母は仕事を辞めた。由梨亜は現在、母と共に小さな家に住んでいるが、大学もそこから通った。もちろん、家といっても、借家である。小さなアパートから築十五年の小さな住宅に引っ越してきたのは、由梨亜が中二のときのことだ。
狭いながらも庭がついており、前の持ち主が丹精していたと見え、四季の花々が植わっている。大学を卒業した由梨亜が今度は働いて家計を支え、母は家で食事や洗濯を担当することになった。
駄目だ、やはり、母には会社をクビになったことは言えない。
今は心臓の方は落ち着いているけれど、できるだけ精神的にも負担をかけない方が良いと医師も言っていたではないか。