テキストサイズ

偽装結婚~代理花嫁の恋~

第1章 ★ 突然の辞職勧告 ★

―別に子どもじゃないんだし、そんなたいそうな病気でもないんだから。
 渋る母の毎月の定期検診についていったのは、つい先月のことだ。
―まあ、まだ五十歳で体力もあるし、特に悪化もしていませんから、急に大きな発作を起こすということもないでしょうが、なるべく心を落ち着けて静かに暮らすことが大切ですね。
 まだ若い医師は銀縁めがねの奥から細い眼で由梨亜を見つめながら淡々と告げた。
 由梨亜は小さく首を振り、改めて拾ったばかりの紙切れを見つめる。
 ここには模擬披露宴の代役を務めた際の報酬は書かれていない。だが、収入はないよりはある方が良いだろう。何しろ、今や由梨亜が稼いでこなければならない立場なのだから。
 いつしか、由梨亜は手のひらの紙片を握りしめていることにも気づかなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ