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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第4章 ★惹かれ合う心たち★

 午後七時、三鷹がいつものように帰ってきた。相も変わらずラフなTシャツとジーンズだ。Tシャツは鮮やかなターコイズブルーで、〝ユー・アー・マイン〟と意味深なロゴが入り、下にはグラマーな金髪女性のビキニ写真がプリントされている。
 そういえば、彼はジュリアのファンだと言っていた。多分、華奢な日本人女性よりは豊満で肉感的な外人女性の方が好みなのかもしれない。
 まあ、間違っても自分が彼の好みでないことは確かだと自信をもっていえそうだ。
「ただいま」
「お帰りなさい」
 やりとりだけ見れば、本当に新婚家庭かと勘違いしてしまいそうな光景である。
 三鷹はキッチンへ直行し、低い口笛を鳴らした。
「こいつは凄いや。由梨亜ちゃんはどうやら俺をデブにするつもりだな? こんな毎日、ご馳走ばっかり食べてたら、冗談でなく相撲取りになるよ」
 いつもながらの冗談めかした物言いに、由梨亜は思わず顔をほろこばせた。
「今日は特別に腕に寄りをかけたのよ。さあ、手を洗ったら、座って。帰ってきたらすぐに食べられるようにと思って、たった今、温め直したところなの」
 三鷹の帰る時間は決まっている。
 三鷹も頬をゆるめた。
「気の利く奥さんだな、君は」
 由梨亜がスプーンやフォークを並べる間に、三鷹は冷蔵庫を開け、よく冷えたワインを出してくる。グラスを二つ並べ、優雅な手つきでそれぞれに注いだ。
「今夜くらいは良いだろ。少しは飲めよ」
 由梨亜は眼を見開いて三鷹を見つめた。
「何で? 何か特別なことでもあるの?」
 三鷹が苦笑してグラスを由梨亜に差し出した。
「自分の誕生日くらい、ちゃんと憶えておかない駄目だぞ」
 刹那、由梨亜はまじまじと三鷹を見つめた。
「何で私の誕生日を知っているの?」
 三鷹はつと視線を逸らした。
「それよりも、見せたいものがあるんだ」
 彼は〝出勤〟するときにいつも背負っているデイパックを持ってくると、中を覗き込んでいる。
「あった、あった。確かに入れたはずなのに、見当たらないんで焦った」

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