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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第4章 ★惹かれ合う心たち★

 丸いケーキは普通に店で売っているものの数倍はある。ホイップクリームが波のように繊細に周囲を縁取り、表面には隙間なくイチゴがびっしりと敷き詰められていた。大きなホワイトチョコレートのプレートに〝Happy Birthday Dear YURIA〟と記されている。
 三鷹は器用に二十八本のローソクを並べた。
「ハッピーバースデー、由梨亜ちゃん」
 由梨亜は瞳を潤ませた。
「私、今日が誕生日なんてこと、すっかり忘れてたのに」
 三鷹と暮らし始めて、二週間余りが経っている。異性と一つ屋根の下に暮らすという未知の体験と更には母が倒れたことへの衝撃とで、由梨亜は心身ともに消耗していた。
 そんな中で誕生日のことなど忘れていたのだ。改めて考えてみれば、暦は既に七月に入っていた。
「これで由梨亜ちゃんは俺より二つ年上になったわけだ」
 そこで由梨亜は眼を瞠った。
「じゃあ、三鷹さんは二十六歳なの?」
「うん」
 三鷹はにこにこしながら頷いた。
「嫌だわ。私はてっきり同じ歳か、一つ二つ上くらい―三十歳くらいだと思っていたの」
「ふうん、じゃあ、俺は頼り甲斐がある大人の男として由梨亜ちゃんの眼には映っていたんだね」
 三鷹はすごぶる機嫌が良かった。
 三鷹がケーキの蝋燭に火を点し、由梨亜が吹き消した。それからケーキを前に三鷹のスマートフォンで二人一緒に写真を撮った。
 三鷹がスマホのカメラレンズを自分たちの方に向ける。
「良い? 一、二、三」
 三と叫んだところでシャッターが降りた。
「おおっ、結構良く撮れてる」
 三鷹のはしゃぐ声につられて覗くと、画面の中の二人はこれ以上はないというくらい幸福そうに寄り添い笑っていた。
「三鷹さん、この写真。迷惑でなければ、またプリントして一枚貰える?」
 偽装結婚―愛のない偽りの結婚をした証拠なんて、残さない方が良いのは判っていた。
 でも、三鷹とのこんなに楽しい想い出が一つも残らないなんて、あまりにも淋しすぎる。

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