偽装結婚~代理花嫁の恋~
第5章 ★ 逢瀬 ★
★逢瀬★
数日後の朝のことである。三鷹が由梨亜に突如として言った。
「夫婦のデートでもしようか?」
朝は食後のコーヒーはブラックと決まっている三鷹に、由梨亜は淹れ立てのコーヒーを手渡した。
白いカップからは湯気が立ち、何ともいえぬ香りが立ち上っている。
由梨亜が愕いていると、三鷹は笑顔になった。
「今日は珍しく仕事が早く終わりそうなんだ。滅多にないから、そういうときでなきゃ、君とデートなんかできそうもないしね」
言われてみれば、自分たちはまだ〝デート〟なるものをしたことはなかった。同じ屋根の下で暮らし始めて、そろそろ三週間になるのに、妙だといえば妙だ。
しかし、自分と三鷹の関係はそもそも偽装結婚から始まったのだから、それも致し方ないことかもしれない。
デートという甘い余韻のある言葉は、由梨亜の胸を高鳴らせた。由梨亜も若い女性だ。やはり、好きな男と一度くらいはデートしてみたい。きっと、また一生の宝物になる素敵な想い出が増えるに違いない。
母が退院したら、三鷹とは別れる。
その想いは今も変わらない。三鷹が何故、偽装結婚を装ってまで父親を欺かねばならなかったのか。由梨亜はまだその理由を知らない。むろん、訊きたいという想いはあるけれど、知ったところで、どうにかなるものではないのだ。
幸いにも母は順調な経過を辿っていた。この様子では、三ヶ月といわず二ヶ月ほどで退院できるだろうと担当医からも言われているる。
別離はやがて確実に来る。今はせめて楽しいことだけを考え、彼と過ごす一日一日、いや一瞬一秒をかけがえのないものと思い大切にしてゆきたかった。
だから、その朝の三鷹の提案は、むしろ由梨亜にとっては大歓迎だったのだ。
三鷹がいつもどおり〝出勤〟した後、由梨亜は大急ぎで部屋中の掃除を済ませ、N病院に行った。その日、会社は有給を取ったと言い訳して夕方まで母の許で過ごし、午後三時に病院を出た。着替えるために、一旦マンションに戻ったのだ。
数日後の朝のことである。三鷹が由梨亜に突如として言った。
「夫婦のデートでもしようか?」
朝は食後のコーヒーはブラックと決まっている三鷹に、由梨亜は淹れ立てのコーヒーを手渡した。
白いカップからは湯気が立ち、何ともいえぬ香りが立ち上っている。
由梨亜が愕いていると、三鷹は笑顔になった。
「今日は珍しく仕事が早く終わりそうなんだ。滅多にないから、そういうときでなきゃ、君とデートなんかできそうもないしね」
言われてみれば、自分たちはまだ〝デート〟なるものをしたことはなかった。同じ屋根の下で暮らし始めて、そろそろ三週間になるのに、妙だといえば妙だ。
しかし、自分と三鷹の関係はそもそも偽装結婚から始まったのだから、それも致し方ないことかもしれない。
デートという甘い余韻のある言葉は、由梨亜の胸を高鳴らせた。由梨亜も若い女性だ。やはり、好きな男と一度くらいはデートしてみたい。きっと、また一生の宝物になる素敵な想い出が増えるに違いない。
母が退院したら、三鷹とは別れる。
その想いは今も変わらない。三鷹が何故、偽装結婚を装ってまで父親を欺かねばならなかったのか。由梨亜はまだその理由を知らない。むろん、訊きたいという想いはあるけれど、知ったところで、どうにかなるものではないのだ。
幸いにも母は順調な経過を辿っていた。この様子では、三ヶ月といわず二ヶ月ほどで退院できるだろうと担当医からも言われているる。
別離はやがて確実に来る。今はせめて楽しいことだけを考え、彼と過ごす一日一日、いや一瞬一秒をかけがえのないものと思い大切にしてゆきたかった。
だから、その朝の三鷹の提案は、むしろ由梨亜にとっては大歓迎だったのだ。
三鷹がいつもどおり〝出勤〟した後、由梨亜は大急ぎで部屋中の掃除を済ませ、N病院に行った。その日、会社は有給を取ったと言い訳して夕方まで母の許で過ごし、午後三時に病院を出た。着替えるために、一旦マンションに戻ったのだ。