偽装結婚~代理花嫁の恋~
第5章 ★ 逢瀬 ★
「方法としては二つあります。まずは今の薬を止める。しかしながら、お母さんの容態はこの薬のお陰で奇跡的な回復を遂げているのだから、もし急に止めたとしたら、また悪化することは十分に予測されます。もう一つは、今の薬を続けながら、降圧剤を服用すること。ただし、これもリスクがないとはいえません。降圧剤そのものがかなり強い薬なのです。なので、非常に強い薬を併用することが城崎さんの身体に果たして真の意味で良いのか、言い換えれば、身体が堪えうるかという点が懸念されますね」
「そう―なんですか」
由梨亜がうなだれるのを見て、安浦医師は励ますように言った。
「厳しいことを言いましたが、これは最悪の場合を想定してのことです。我々は常にあらゆる場合を考えて患者の容態を注意深く見守ってゆかなければなりません。だから、敢えてお話ししたんです。今、僕の上司である心臓外科の部長とも相談して、今後の治療法について改めて話し合っているところです。今は医薬も日進月歩ですから、比較的副作用の少なくてよく効く薬もあります。そういう代替になるような薬を探して服用することが最も望ましいと思えるので、今はその方向で話を纏めていますから、安心して下さい。大丈夫ですよ」
「どうかよろしくお願いします」
由梨亜の頬を堪え切れなかった涙がつうっと流れ落ちた。
安浦医師はハッとした表情で、由梨亜をまじまじと見つめた。
「泣かせてしまいましたね。しかし、あなたは立派ですよ。ここまで最悪の事態を想定して親族の方にお話ししたら、大概の方は、かなり取り乱されますから。だが、あなたは事実をありのままきちんと受け止め、我々を信じて下さった。きっと気丈な女性なのでしょう」
由梨亜はバッグからハンカチを出して、涙を拭いた。
「正直、あまりにショックが大きくて、取り乱すことさえできませんでした」
なるほど、と、医師は銀縁眼がね越しに眼を細めて由梨亜を見つめた。
今日の由梨亜は三鷹とのデートに備えて、気合いを入れてオシャレしてきていた。白い丸襟のついたワンピースは膝丈で、紺色地に全体的に小さな白い水玉が散っている。
「そう―なんですか」
由梨亜がうなだれるのを見て、安浦医師は励ますように言った。
「厳しいことを言いましたが、これは最悪の場合を想定してのことです。我々は常にあらゆる場合を考えて患者の容態を注意深く見守ってゆかなければなりません。だから、敢えてお話ししたんです。今、僕の上司である心臓外科の部長とも相談して、今後の治療法について改めて話し合っているところです。今は医薬も日進月歩ですから、比較的副作用の少なくてよく効く薬もあります。そういう代替になるような薬を探して服用することが最も望ましいと思えるので、今はその方向で話を纏めていますから、安心して下さい。大丈夫ですよ」
「どうかよろしくお願いします」
由梨亜の頬を堪え切れなかった涙がつうっと流れ落ちた。
安浦医師はハッとした表情で、由梨亜をまじまじと見つめた。
「泣かせてしまいましたね。しかし、あなたは立派ですよ。ここまで最悪の事態を想定して親族の方にお話ししたら、大概の方は、かなり取り乱されますから。だが、あなたは事実をありのままきちんと受け止め、我々を信じて下さった。きっと気丈な女性なのでしょう」
由梨亜はバッグからハンカチを出して、涙を拭いた。
「正直、あまりにショックが大きくて、取り乱すことさえできませんでした」
なるほど、と、医師は銀縁眼がね越しに眼を細めて由梨亜を見つめた。
今日の由梨亜は三鷹とのデートに備えて、気合いを入れてオシャレしてきていた。白い丸襟のついたワンピースは膝丈で、紺色地に全体的に小さな白い水玉が散っている。