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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第5章 ★ 逢瀬 ★

 とはいえ、紺のポロシャツにベージュのパンツという出で立ちはけしてめかし込んでいるとはいえないだろうけれど。
 しかし、超絶美男の三鷹はそういう何げない格好でもサマになる。おしなべて男も女も美形は得である。
 三鷹は挑発的な視線を安浦医師に向けた。
「お話し中のところを申し訳ないのですが、彼女は僕と待ち合わせしていたので」
 それでも、最低限の礼儀は守って、丁寧な口調で話しかけている。
 安浦医師は頷いて立ち上がった。
「それは失礼しました。それじゃ、また。今の食事の話、考えてみてください」
 安浦医師は三鷹にではなく、由梨亜に話しかけた。実はこの時、男同士で見えない火花が散っていたのだけれど、そういった男女間のことについては年齢の割に経験も知識も乏しい由梨亜が気づくはずもない。
「ちょっと、あんた。今、何て言った?」
 三鷹は頭から無視されたので、余計に安浦医師に対して敵意を抱いたようだ。安浦医師に腕組みして迫っていくのを見、由梨亜は蒼褪めた。
「こいつは俺の女だ。横からちょっかい出すのは止めて貰おう」
 安浦医師は露骨に眉をしかめた。
「何だ、君は。初対面の人間に対して物の言い方も知らないのか」
「生憎と礼儀を知らない相手には、俺自身も礼儀をわきまえない主義でね」
「失敬な。城崎さん、この男は一体、何者なんです?」
 暗に由梨亜まで非難するようなまなざしを向けられ、由梨亜は色を失った。
「この人は―」
「夫だよ。俺はこいつの夫。ああ、旦那とか亭主ともいうな」
 わざと嫌みったらしく言うのに、安浦医師が驚愕の表情を向けた。
「しかし、城崎さんは独身だと聞いていましたが、この男は本当にあなたのご主人なのですか? まさかつまらないチンピラに脅されて関係を持つように強要されたりはしていませんよね」
「何だとォ、人をチンピラ呼ばわりしやがって、どっちが失礼なんだよ?」
 三鷹が安浦医師の襟元を掴み上げた。どちらも上背があるが、三鷹の方が更に身長が数センチ高い。

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