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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第5章 ★ 逢瀬 ★

 三日後の朝、由梨亜は三鷹の運転するスポーツカーで海沿いの道を走っていた。
 N町から更にT町を過ぎ、F町に入る。町自体はN町より更に小さく、人口も三分の二ほどになるのだと、三鷹が説明してくれた。
 どこに行くのかと思ったが、三鷹が何も説明しないので、黙っていた。彼は必要があれば、ちゃんと教えてくれるはずだ。
 いつしか由梨亜の三鷹への信頼は深まりつつあった。三鷹はやがて町の賑やかな中央部を抜け、町外れの小さな白い建物の駐車場に車を乗り入れた。
 由梨亜は助手席に座り、一昨日の朝の出来事をぼんやりと思い出していた。彼は約束をきっちりと守った。
 駅前の喫茶店で揉めた翌朝、N病院を訪ねて安浦医師にきちんと謝罪してくれた。
 外来がまだ始まる前の時間で、病院のロビーは閑散としていた。呼ばれて姿を見せた安浦医師は由梨亜と並び立つ三鷹を見て、いささか失礼なほど眉をひそめた。
―何か用ですか? それとも、まだ僕に何か言い足りないことでも?
 ぞんざいに突き放すような口調で言う安浦医師の態度は全く大人げなかった。
 三鷹はそんな医師の態度には全く頓着せず、深々と頭を下げた。
―昨日は申し訳ありませんでした。昨日、家内からさんざん怒られました。義母の主治医でいらっしゃるとは知らず、失礼がありましたことを心からお詫び申し上げます。
 三鷹が由梨亜をはっきりと〝家内〟と呼んだ時、安浦医師はちらりと由梨亜を見た。
―主人の態度に失礼があったことを私もお詫びします。
 由梨亜も傍らで三鷹にならって頭を下げた。
―まさかと思いましたが、昨日、結婚していると言ったのは本当だったんですね。
 安浦医師は愕きを隠そうともせず、由梨亜と三鷹を交互に眺めた。
―まあ、判ってくれれば、それで良いんです。
 最後まで自分の方が立場は上なのだという傲岸さをちらつかせ、安浦医師は白衣の裾を翻して白いリノリウムの廊下を去っていった。
 それに対し、三鷹は終始、慇懃な態度を貫き、医師の挑発的な物言いにも一切、乗らなかった。二人の男を傍らで見ている由梨亜にも、どちらが男として―人間として器が大きいかはすぐに判った。

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