偽装結婚~代理花嫁の恋~
第5章 ★ 逢瀬 ★
母と自分のために、頭を下げたくない相手に誠意ある対応を示してくれた。そのことに、由梨亜は言い尽くせないほどの感謝を抱き、彼への信頼をますます深めたのだ。
「由梨亜ちゃん?」
N病院でのひとときに想いを馳せていた由梨亜はハッと我に返った。
「ごめんなさい。つい考え事をしていたものだから」
慌てて謝ると、三鷹は破顔した。
「片道二時間のドライブは流石に疲れただろ。もう着いたから安心して」
三鷹は車から降りると、先回りして、さっと外側から助手席のドアを開けた。こういうさりげない気遣いや洗練された物腰は一朝一夕に身につくものではない。こういうところからも、彼が見かけどおりの明るい女タラシのお調子者ではないことは察せられる。
だが、それは彼自身が必要だと認めれば、いつか話してくれるだろう。そのときまでは自分の方から三鷹に訊ねるのは止めておこうと決めていた。
「ここは、どこ?」
由梨亜は物珍しげにキョロキョロと周囲を見回した。
けして広いとはいえない駐車場からは、はるかに海が臨める。サファイアブルーの海がまるで輝く一枚の布のように遠方にひろがっていた。
三鷹は静かな声音で言った。
「町の人は保養所と呼んでいる。本当の名前は〝わかばクリニック特別療養センター〟」
「病院なのね?」
問うと、三鷹は軽く頷いて歩き始めた。由梨亜は慌てて後を追いかける。
駐車場を出てすぐの場所に、白い建物が見えた。広さはまずまずで、病院というよりは最近、よく見かける特別有料老人ホームに外観は似ている。
玄関を入ると、受付があった。三鷹はここで受付の若い女性と少し話した。
「どなたか知っている人がここにいるの?」
由梨亜の質問に、三鷹は小さく頷いた。
「もうじき判るよ」
五分くらい経っただろうか。受付から真っすぐに伸びた廊下を車椅子に乗った女性が介護士に連れられてやってきた。
オフホワイトにピンクの小花が散ったパジャマを着て、セミロングの髪をおさげにしている。格好は少女めいているが、どう見ても五十は過ぎているように思える。
「由梨亜ちゃん?」
N病院でのひとときに想いを馳せていた由梨亜はハッと我に返った。
「ごめんなさい。つい考え事をしていたものだから」
慌てて謝ると、三鷹は破顔した。
「片道二時間のドライブは流石に疲れただろ。もう着いたから安心して」
三鷹は車から降りると、先回りして、さっと外側から助手席のドアを開けた。こういうさりげない気遣いや洗練された物腰は一朝一夕に身につくものではない。こういうところからも、彼が見かけどおりの明るい女タラシのお調子者ではないことは察せられる。
だが、それは彼自身が必要だと認めれば、いつか話してくれるだろう。そのときまでは自分の方から三鷹に訊ねるのは止めておこうと決めていた。
「ここは、どこ?」
由梨亜は物珍しげにキョロキョロと周囲を見回した。
けして広いとはいえない駐車場からは、はるかに海が臨める。サファイアブルーの海がまるで輝く一枚の布のように遠方にひろがっていた。
三鷹は静かな声音で言った。
「町の人は保養所と呼んでいる。本当の名前は〝わかばクリニック特別療養センター〟」
「病院なのね?」
問うと、三鷹は軽く頷いて歩き始めた。由梨亜は慌てて後を追いかける。
駐車場を出てすぐの場所に、白い建物が見えた。広さはまずまずで、病院というよりは最近、よく見かける特別有料老人ホームに外観は似ている。
玄関を入ると、受付があった。三鷹はここで受付の若い女性と少し話した。
「どなたか知っている人がここにいるの?」
由梨亜の質問に、三鷹は小さく頷いた。
「もうじき判るよ」
五分くらい経っただろうか。受付から真っすぐに伸びた廊下を車椅子に乗った女性が介護士に連れられてやってきた。
オフホワイトにピンクの小花が散ったパジャマを着て、セミロングの髪をおさげにしている。格好は少女めいているが、どう見ても五十は過ぎているように思える。