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偽装結婚~代理花嫁の恋~

第5章 ★ 逢瀬 ★

「オヨメサン、ムスメ、ホシイ」
「そう、俺の奥さんだから、芙美子さんには義理の娘ってことになるんだ」
「オンナノコ、ムスメ、ホシイ」
 三鷹の母は壊れたラジオのように同じ科白を繰り返す。
「由梨亜ちゃん。挨拶してやって」
 由梨亜は慌てて、三鷹の母に頭を下げた。
「初めまして、城崎由梨亜といいます。あ―、じゃなくて、広澤由梨亜です。不束者ですが、よろしくお願いします」
 まさか三鷹の母に逢うことになるとは考えてもいなかったので、何ともとんちんかんな挨拶をしてしまった。
「ユリア、カワイイ。ムスメ、カワイイ」
 三鷹の母は無邪気な歓びをたどたどしい言葉で表現している。それまで生気のなかった顔にわずかながら明るさが戻っていた。
 三鷹の母がしきりに手招きしている。
 振り返ると、三鷹が頷いた。由梨亜はしゃがみ込み、三鷹の母と視線を合わせた。
 ふいに温かな手のひらが由梨亜の髪を撫でた。
「ムスコ、オヨメサン、カワイイ」
 そう言いながら、由梨亜の髪を撫でている。
 傍らで三鷹がポツリと言った。
「お袋はすべて判っていないわけではないんだ。俺が息子であるとは認識できてはいないけど、君が俺の嫁さんだってことは理解しているはずだ」
 由梨亜は三鷹の孤独を宿した表情が胸に迫り、何も言えなくなった。
「いつか三鷹さんのお母さんに逢って欲しいって言ってたけど」
 控えめに言葉を選ぶと、三鷹は笑って頷いた。
「色々と説明するより、連れてきた方が早いと思ってね」
「そうだったの」
「お袋に逢って、どう思った?」
「三鷹さんによく似ているみたい。目許なんて、そっくりよ」

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