
なつのおと
第3章 遠い虹へ
「ああ、うん。昔親父にこの楽譜もらってひとりで練習したんだ」
10歳の、まだ鍵盤ハーモニカなんかでしか遊んだことが無いような息子に、親父はこの曲の楽譜を最後に渡した。
いつか聴かせろ、と。
それから引っ越し先の小学校や中学校の音楽室にコッソリ忍び込んで一生懸命練習した。
中学の先生には一回見つかってしまったが、何も言わず指使いの難しい部分を教えてくれた。
そうして俺は高校に入る頃にはすらすらと楽譜を見ずに弾けるようになったんだ。
本当にこの曲だけ。
あれから全く会えていないが親父はあの約束を覚えているのだろうか。
