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神さま、あと三日だけ時間をください。

第1章 ♭眠れぬ夜♭

 確かに琢郎の言うとおり、これまでになく感じた。絶頂というものも生まれて初めて味わった。よく女性雑誌の特集などで、〝女が感じる〟という表現を眼にするけれど、それが一体、どういうものか、実際に女体がどんな状態になるのか。
 美海はこの歳まで知り得なかったのだ。
 けれど、身体は死ぬほどまでの快感を味わったというのに、心は少しも満たされてはいなかった。むしろ、いつもの味気ないセックスの後よりも、更に酷かった。
 背後では既に琢郎が気持ちよさそうな寝息を立てている。一人で満足して、女を思いきり悦がらせたと思い込んでいる男。男の思い上がりとエゴがその態度にも如実に表れていた。
 美海は緩慢な足取りで寝室を横切り、廊下に出た。向かいのバスルームに入ると、シャワーの湯温を高めにして熱い湯を頭から浴びた。今夜の営みは確かに今までになく情熱的であったかもしれない。だが、互いにいたわり合う気持ちも優しさの欠片もなく、ただ獣のように荒々しく交わっただけにすぎなかった。
 琢郎は、あんな行為で満足できたのだろうか。美海はただ自分がレイプされたように、身体だけを烈しく奪われたような気がしてならない。
 涙がじんわりと滲んできて、美海は慌ててシャワーのノズルを顔に近づけた。熱い湯が今は涙を流してくれるのがありがたかった。
 もう、私たちは本当におしまいなのだろうか。
 今夜、何度も脳裏をよぎった哀しい予感が美海の心を凍らせた。

 美海はともすればよろめく身体を意思の力で辛うじて支え、自室に戻った。四LDKのマンションは、リビングを挟んで琢郎と美海の部屋となっており、各部屋にはそれぞれ扉を開けて自由に行き来できる仕組みになっている。つまり、続き部屋のようになっているのだ。その他には寝室とキッチン。
 これは短い廊下の向かい側に居並んでいる。二人が住んでいるのはN市のN町だ。ここはN市内では比較的、立地も良い高級マンションの部類に入る。今年、四十一歳になる琢郎は営業部長なので、それなりの収入はあるのだ。

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