神さま、あと三日だけ時間をください。
第1章 ♭眠れぬ夜♭
まあ、このマンションは琢郎の給料では少し無理をしている感があるにはあるが、マンション完成前にモデルルームを見に訪れた際、美海がひとめで気に入ったのを見て、琢郎が即決したのだった。
自室に戻った美海は窓際の小さなデスクに座り、パソコンの電源をONにした。
まずは定期的に行っているメールのチェックだ。さして交友範囲の広くない美海宛にくるとすれば、不要なダイレクトメールか、大学時代の親友たちからの近況を知らせるメールしかない。
その日のメールは数件あったが、案の定、広告が殆どで、後は一通だけ私信があった。
―春紀が満一歳の誕生日を迎えました。皐月
大学時代からの女友達の一人、皐月からだ。
メールには画像が添付されていて、一歳になったばかりの愛息を八歳、九歳になる上の娘たちが取り囲むようにして写っている。
無邪気な子どもたちの笑顔に、何故か今夜だけは苛立ちを憶えた。
皐月は美海より一年先に結婚した。彼女もなかなか子どもに恵まれず、通院した経験を持つ。なので、結婚三年目に漸く長女に恵まれた後も、子どものいない美海の気持ちを理解してくれる数少ない友人の一人だった。
しかし、一年前に末っ子の男の子が生まれてからは、態度がガラリと変わった。皐月は年子で女児に恵まれたものの、どうしても男児を望んでいた。それが続けて娘が生まれた後は、いっこうに気配もなかった。再び病院に通って治療を受けた末に恵まれたのが去年、生まれた長男だったのである。
七年ぶりの出産に皐月は大騒ぎしていたものだが、それまでは子どものいない美海に遠慮して子どもの写真を送ってこなかったのに、今では毎日のように赤ん坊の画像つきのメールが送られてくる。
こういったものは、たまには良いものだけれど、それが毎日となると、流石に送られる方もうんざりする。
美海自身にも同じように成長を歓べる我が子がいれば話もまた別だろうけれど、幾ら望んでも自分には子どもができなかった。皐月だって、欲しくても子どもを持てない宿命の辛さは満更知らないわけではないだろうのにと、恨めしく思う気持ちにもなってしまう。
―旦那のお義母さんったら、私の顔を見る度に〝子どもはまだ?〟って訊くのよ。もう、本当にいやになっちゃう。
自室に戻った美海は窓際の小さなデスクに座り、パソコンの電源をONにした。
まずは定期的に行っているメールのチェックだ。さして交友範囲の広くない美海宛にくるとすれば、不要なダイレクトメールか、大学時代の親友たちからの近況を知らせるメールしかない。
その日のメールは数件あったが、案の定、広告が殆どで、後は一通だけ私信があった。
―春紀が満一歳の誕生日を迎えました。皐月
大学時代からの女友達の一人、皐月からだ。
メールには画像が添付されていて、一歳になったばかりの愛息を八歳、九歳になる上の娘たちが取り囲むようにして写っている。
無邪気な子どもたちの笑顔に、何故か今夜だけは苛立ちを憶えた。
皐月は美海より一年先に結婚した。彼女もなかなか子どもに恵まれず、通院した経験を持つ。なので、結婚三年目に漸く長女に恵まれた後も、子どものいない美海の気持ちを理解してくれる数少ない友人の一人だった。
しかし、一年前に末っ子の男の子が生まれてからは、態度がガラリと変わった。皐月は年子で女児に恵まれたものの、どうしても男児を望んでいた。それが続けて娘が生まれた後は、いっこうに気配もなかった。再び病院に通って治療を受けた末に恵まれたのが去年、生まれた長男だったのである。
七年ぶりの出産に皐月は大騒ぎしていたものだが、それまでは子どものいない美海に遠慮して子どもの写真を送ってこなかったのに、今では毎日のように赤ん坊の画像つきのメールが送られてくる。
こういったものは、たまには良いものだけれど、それが毎日となると、流石に送られる方もうんざりする。
美海自身にも同じように成長を歓べる我が子がいれば話もまた別だろうけれど、幾ら望んでも自分には子どもができなかった。皐月だって、欲しくても子どもを持てない宿命の辛さは満更知らないわけではないだろうのにと、恨めしく思う気持ちにもなってしまう。
―旦那のお義母さんったら、私の顔を見る度に〝子どもはまだ?〟って訊くのよ。もう、本当にいやになっちゃう。