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神さま、あと三日だけ時間をください。

第1章 ♭眠れぬ夜♭

 こんな世界が現実に存在するとは、これまで考えたこともなかった。三十九にもなって何という世間知らずかと他人は嘲笑うかもしれない。しかし、それが美海の生きてきた世界であり、想像できる限界であった。
 今、美海が眼にしているのは彼女が生きてきた世界とは全く別の―いわば裏側の世界ともいえた。よく小説やドラマでは、このテの世界を眼にする機会はあるけれども、本当に存在するのかと半信半疑であった。
―生理中の妻です。
 とのコメントのついた写真は、ロングヘアの茶髪女性がブラとパンティ姿で座っている。もちろん、大股をひろげている。
―そちらの奥さんは、生理用のパンティでも色っぽいですね。もーう、たまらんわ。奥さん、一度、俺に貸して~。
 誰かがコメントを返している。
 美海は思わず顔を背けた。幾ら何でも、これはあまりに酷い。妻の裸をアップする夫も夫だけれど、それに歓んで協力する妻もどうだろう。その他にも、同じ奥さんが乳房を丸出しにして料理したり、尻を剥き出しにして四つん這いになっている姿がアップされている。信じられない世界だ。
 こんなサイトは見る価値もない。美海がそう思って画面を変えようとしたそのときのことである。

―俺、今、何となく人恋しい気分。良かったら、少しだけ俺と話しませんか? シュン

 投稿者の大多数が性的な匂いを濃厚に漂わせ、或いは露骨に表現している中で、その一文はやけに目立ったというか場違いな感じがした。
 人間、生きていれば辛いこともある。そんな時、一人ぼっちだと、余計に悲壮感も増すものだ。最悪の場合は、この世の中の自分以外のすべての人間は幸福なのに、自分だけが不幸だなんて思ってしまうこともある。
 美海は何となく、このメッセージを投稿した人の気持ちに共感できた。今の彼女自身の気持ちがそうだったから。
 少しだけなら、メッセージを送るくらいなら、大丈夫よね。
 そう思い、投稿フォームに画面を切り替えた。

―誰かと話したいときって、誰でもありますよね。何か悩んでいるんですか?  ミウ

 メッセージ欄に入力してから、流石に実名はまずいと思い、名前を〝ミュウ〟と変えた。

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