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神さま、あと三日だけ時間をください。

第2章 ♭ミュウとシュン~MailsⅠ~♭

 美海を喘がせ、身もだえさせたことで琢郎は男としての身勝手な自己満足に浸っていたようだが、美海にしてみれば、ただ一方的に犯されたに過ぎなかった。
 かつてはあれほど好きだった琢郎の心が見えない。琢郎はここのところ、ずっと不機嫌だ。あの初めての情熱的な一夜を過ごしてからというもの、彼は夜になると、何度か美海を抱こうとした。
 しかし、肝心の美海の方がその気にならず、琢郎の求めに応じなかった。もうあんな風に一方的に荒々しく貫かれるのはご免だ。もっと琢郎と気持ちが近づけばともかく、今の状態で彼とセックスする気にはなれない。
 そんなことが何度が続き、やがて琢郎は美海に手を伸ばしてこなくなり、再び背中を向けて眠るようになった。朝早くに出勤して、帰宅はいつも八時を回っている。新婚時代は琢郎の帰りを待って一緒に食べていたものの、今では先に済ませておく方が多い。帰宅した琢郎が食べている間は側に座って給仕はするけれど、二人は殆ど喋ることもない。琢郎は美海をまともに見ようともせず、黙々と食べ終えると、逃げるように自室へと引っ込んだ。
 これではいけない。このままでは、本当に自分と琢郎の間の亀裂は大きくなるばかりなのは判っていたけれど、美海にはなすすべもかった。
 こんなときに子どもでもいれば、少しは夫婦で会話することもあるのだろうが、生憎と間を取り持ってくれる子どもはいない。いや、世の中には子どもが何人いても、離婚する夫婦はごまんといる。結局のところ、もう本当に取り返しのつかないところまで夫婦仲が冷めてしまったのなら、子どもの存在も最悪の事態を回避する手段にはなり得ないのだろう。
 夫婦というのは、とどのつまりは夫と妻の拘わりであり、子どもには関係のない話なのだから。子どものために我慢する―という言葉はよく聞かれるが、あれは、あくまでも夫婦がお互いにまだ結婚生活を続ける心のゆとりがあるからこそのものだろう。
 本当に駄目になってしまったら、たとえ子どもの存在であろうが、夫婦の別離を引き止められはしない。夫婦だって所詮は男と女なのだから、感情が冷めきってしまえば一緒にいられないのも当然のことだ。

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