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神さま、あと三日だけ時間をください。

第2章 ♭ミュウとシュン~MailsⅠ~♭

 六月最後の日は金曜だった。
 その夜も美海は琢郎の食事が終わり、後片付けを手早く済ませると、自分の部屋にこもった。

六月三十日
 今日は俺がバイトしている牧場で子牛が生まれたんだ。めっちゃ、可愛いよ。 シュン

 〝可愛いよ〟の下にはハートの絵文字が入っている。若い子はメールにやたらと絵文字を使いたがる。こうしてメールでやりとりしているだけではシュンの二十二歳という若さをあまり意識はしないけれど、こういうときは、やはり彼は若いのだとしみじみと思った。

 へえ、そうなんだ。生まれたばかりの子牛なんて、見たことないから判らないけど、シュンさんの言うように可愛いんでしょうね。
               ミュウ
         ↓
 じゃあ、見にくれば?    シュン
 ↓
 そうしたいのは山々だけど、無理そうだわ。
          ミュウ
         ↓
 ミュウはいつもそうやって俺から逃げるね。               シュン
         ↓
 別に逃げたりなんかしていないけど。
                 ミュウ
         ↓
 じゃあ、明日、俺の住んでる町においでよ。子牛も好きなだけ見られるよ。   シュン
         ↓
 明日だなんて、急すぎる。やっぱり、行けそうにない。           ミュウ
         ↓
 牧場のオーナーが子牛の名前は俺につけて良いって言うんだ。色々考えて、名前はミュウってつけようと思ってる。   シュン
         ↓
 それって、もしかして、私の名前? 
                ミュウ 
         ↓
 牛にミュウの名前を貰ったら、イヤ?
                 シュン
         ↓
 いやではないけど、どうしてなの?
                ミュウ 
         ↓
 この子、物凄い難産でやっと生まれたんだ。駆けつけた獣医さんは、もしかしたら母牛も子牛も死んでしまうかもとまで言ってた。奇跡的に無事に生まれた子だからこそ、いちばん好きな女(ひと)の名前をつけたいと思ったんだよ。               シュン
         

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