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神さま、あと三日だけ時間をください。

第2章 ♭ミュウとシュン~MailsⅠ~♭

 美海はここで息を呑んだ。〝いちばん好きな女〟の文字だけが大きく浮き上がって迫ってきた。
 だが、何故、自分なのだろう? 二十二歳の大学生であれば、当然ながら周囲に若い女の子もたくさんいるだろうし、こんな風に出会い系サイトで知り合った身元も知れない―しかもメールだけでしかやりとりしたことのない女にここまで心を傾ける必要はないはずだ。

 俺、前から思ってたんだよ。自分が結婚して女の子が生まれたら、そのときは奥さんの名前をつけようと決めてるんだ。  シュン

 美海が返信を返す前に、再びシュンからのメールが来た。
 意味深な科白に、美海は返す言葉もない。シュンは難産の末に生まれた子牛に大好きな女の名前―ミュウとつけると言い、更に結婚して生まれた我が子にも妻の名前をつけると言い切っている。
 この思わせぶりな科白の意味を、美海は敢えて深くは考えまいとした。

 それは素敵ね。シュンさんが選ぶ女性なら、きっと、とても素敵な人に間違いないと思うから。            ミュウ

 しばらく返信はなく、十分ほど経った頃、やっと返信が来た。

 ねえ、明日の日曜、逢えないかな? もう待ちきれないよ、俺。どうしてもミュウに逢いたい。             シュン
 
 もしかしたら、シュンの言葉を無視したので怒ったのかもしれないと不安になっていたのだ。美海はどこかホッとしながら携帯の画面を見て絶句した。
 しかし、次の瞬間、美海の手は彼女の意思とは全く無関係に動いていた。

 判った。明日、逢いましょう。  ミュウ

 送信のボタンを押してから、自分がどれだけ大変なことをしたかに気づいた。
 出会い系サイトで知り合い、メールのやりとりをした後、二人だけで密会する。まるで、映画の筋書きのようだが、これは他でもない現実であり、自分自身の身に起こっていることなのだ。

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