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神さま、あと三日だけ時間をください。

第2章 ♭ミュウとシュン~MailsⅠ~♭

 夢が醒めた直後は落ち込むかもしれないが、人間は存外にしぶとい。しばらく落ち込んでいても、やがて現実と向き合い、明日からの日々をまた懸命に生きてゆくようになる。いつまでも終わった〝夢〟に縋り付いても、何の益もないと悟るときがすぐに来る。
 M町はN町からはJRの普通列車で一時間のところにある。美海の暮らすN町よりはひと回り小さく、人口も半分ほどしかない。小さな漁港を有しており、漁師として生計を立てる家も少なくはなかった。
 その他には酪農農家も多く、シュンがバイトしているという牧場もそんな酪農家の一つであろうと思われた。
 漁家が多いというだけあり、小さな無人駅に降り立った瞬間、プラットホームから海が見渡せた。コバルトブルーの海がまるで一枚の絵画のようにはるかにひろがっている。
 美海はひとしきりその眺めを堪能した後、プラットフォームから駅の出入り口へと続く短い階段を下りた。
「ミュウ?」
 階段を下りきるまもなく声をかけられ、美海は弾かれたように顔を上げた。
 見上げるほど背の高い青年が美海を笑顔で見下ろしている。
「―シュンさん?」
 美海は呆気に取られて相手を見つめた。二十二歳と聞いてはいたが、これはまた何という若さだろう! ほどよく陽に灼けた膚、甘いながらも男らしい面はなかなかに整っていてルックスは抜群だ。身長は百八十は越えているのではないか。
 確か、こういう感じの芸能人がいたはずだ。日本人の俳優ではなく、よく見かける韓国人俳優に、こんな顔をした男がいたような気がする。
 今、眼の前で生き生きとした瞳をこちらへ向けている若い男。この男が自分を〝彼女〟扱いしていたということ自体が信じられない奇蹟のようなものだ。
 シュンの身体からは若さ特有の輝きが放たれていて、それはもう美海がはるか昔にどこかへ置き忘れてきた大切なものを思い出させた。
「私だって、よく判ったのね」
 美海が微笑むと、シュンは破顔した。
「だって、俺がイメージしてたとおりのコだったもの」

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