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神さま、あと三日だけ時間をください。

第2章 ♭ミュウとシュン~MailsⅠ~♭

 アラフォーのオバさん相手に〝コ〟もないだろうと思ったが、まあ、ほんのお世辞だろう。正直なところ、彼がすぐに自分を見つけられるとは考えていなかった。シュンは恐らく、自分と同年代の若い女性をイメージしているに違いない。ゆえに、いかにも〝オバさん〟っぽい外見の美海など眼中にも入れず、通り過ぎていってしまうのではないかと思っていた。
 最悪の場合、ここでひとめ見るなり、〝さようなら〟となっても仕方ないと覚悟していた。だが、どうやら、それは杞憂にすぎなかったらしい。シュンは嬉しそうに瞳をきらめかせている。
「そう? 私はシュンさんががっかりするのは間違いないと思っていたんだけど」
「まさか。想像以上に可愛いコなんで、びっくりしてるよ」
 今時の若い男の子は本当に口がうまい。見た限りでは特に浮ついたところもなく、真面目そうな好青年ではあるが、こんな調子で周囲の女の子たちを次々と口説いているのだろうか。
 しかし、三十九歳のオバさん相手には、お世辞が過ぎるようだ。後で彼にさりげなく教えてあげよう。あまりに度の越えたお世辞や褒め言葉はかえって現実感がなく、相手に失礼なのだと。
「時間も時間だし、先に昼ご飯にしようか」
 駅前に小さなマクドがあり、そこで昼食にした。こういうのも若い男の子相手のデートらしくて良い。駅の駐車場に軽トラが停めてあった。シュンは白い軽トラの助手席のドアを開けた。
「マクドに軽トラじゃあ、初回から嫌われてしまいそうだけどね。今度、逢うときはもう少しマシなところに連れていくから」
 シュンは笑いながら、軽トラを発進させた。
 果たして、自分たちに〝今度〟があるのかどうか。恐らくはないだろう。何がどうなっているのか判らないが、今のところ、シュンは美海に愛想を尽かしている様子はない。
「まず最初に牧場に行こう。例の子牛を見せてあげられると思うから」
 この軽トラも牧場のオーナーから借りたものだという。ちゃんと美海が牛舎を見学する許可も取ってあるということだ。
 ほどなく牧場に到着し、案内されたのは牛舎というよりは、ただっ広い小屋のようなものだった。合わせると十数頭の牛がのんびりと草を食み、時折、モーと啼いている。

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