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神さま、あと三日だけ時間をください。

第2章 ♭ミュウとシュン~MailsⅠ~♭

 それぞれの牛の居場所は木の板で仕切られている。
「こっち、こっち」
 シュンは取っておきの宝物を披露する子どものように待ちきれないといった様子で、美海を手招きした。
 子牛は最奥部の仕切りにいた。すぐ隣にいるのは母牛だろう。牛の顔なんて、まともに見たのは初めての経験ではあるが、それでも微妙に顔つきが違うことを知って愕いていた。
 十数頭いる牛の顔はそれぞれ違う。まあ、人間だって十人いれば同じ顔はないのだから、牛だって当たり前といえば当たり前かもしれないが。
 母牛と子牛の顔は何とはなしに似ている。眼許辺りが特にそっくりだ。
「流石に親子ね。よく似てる」
 感心したように言うと、シュンが笑った。
「紹介するよ、この子がミュウ」
「シュンさんが名付け親になった第一号の子牛ね?」
 美海も笑いながら言うと、シュンが首を振った。
「今のはミュウに言ったんじゃないよ。こっちの子牛のミュウに言ったんだよ」
「―」
 いまいち意味が判らず、シュンを見つめる。シュンが少し眩しげに眼を細めた。
「だから、今の紹介は子牛にしたんだよ。このコが俺の彼女で、ミュウっていうんだよって」
 刹那、美海は背中をしなやかな鞭でピシリと打たれたような気になった。
「ちょっと待って。シュンさん、私はあなたの彼女というわけでは―」
「ごめん。初めて逢ったばかりなのに、ちょっと強引すぎるかな?」
 シュンが小首を傾げて、覗き込んでくる。
 美海はその熱を帯びた視線をまともに受け止められず、慌てて顔を背けた。
 しばらく沈黙が漂った。やはり、気まずいものが混じっている。その気詰まりな空気を変えるように、シュンが明るい声音で言った。
「乳搾りもやってみる?」
「えっ、ええ」
 訳の判らないままに頷き、美海は牛の搾乳まで初体験することになった。
「良い? こうやって、こんな感じでやるんだよ」
 シュンが見本を示してくれたものの、どうも上手くできない。

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