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神さま、あと三日だけ時間をください。

第2章 ♭ミュウとシュン~MailsⅠ~♭

 見上げる空は眩しいほど蒼く、海の色に負けないほどの鮮やかさである。砂浜にはレモンイエローの向日葵が何本も群れ咲いていた。
 美海は白いサンダルを脱ぎ、すっかり熱くなった砂の上をゆっくりと歩く。
「熱い。まるで自分がエビになって、オーブンの上で温められているみたい」
 美海が真剣な顔で言うのに、シュンはプッと吹き出した。
「ミュウって面白いことを言うんだね」
「そんなに変なこと言った?」
 シュンがあまりに笑い転げるので、美海は少し拗ねたように言った。
「変じゃないけど、普通の人はなかなか言わないよね、そんな科白」
「どうせ私は変人ですよ」
 美海は頬を膨らませて、一人でどんどん先に歩いていった。
「君の本当の名前は何ていうの?」
 ふいに声が追いかけてきて、美海はハッと立ち止まった。
 とうとう、その瞬間(とき)が来てしまった。だが、いずれはこうなると覚悟していたはずだ。
 美海は振り向いた。
「美海。美しい海と書くの」
 束の間の静寂が二人の間を流れ、視線が交わった。
「美しい海、か。今、俺たちが見てる海のようだね。よく似合ってるよ、良い名前だ」
 美海は何も言わずに、海を見つめた。そろそろ真実を話さなければならない。自分は本当はあなたより十七歳も年上のオバさんで、とうに結婚して夫もいること。あなたには全然、ふさわしくないから、これからはメールも逢うのも止めましょう―、と。
「他には? 何か訊きたいことはないの?」
 わざと軽い口調で訊ねる。
 今度は、シュンが押し黙った。横顔が少し強ばっているように見える。今日、彼が初めて見せる深刻な表情だった。
「シュンさんは私が幾つくらいに見える?」
 彼の方からは何も言わないので、美海が切り出した。
 やや経って、返事が返ってくる。
「三十くらいかな。もしかしたら、もう少し若い?」
 その応えには美海も思わず笑ってしまいそうになった。だが、相手が真面目に話しているときに、笑うほど愚かではない。
「それ、本心で言ってるの?」

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