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神さま、あと三日だけ時間をください。

第3章 ♭ミュウとシュン~MailsⅡ~♭

 琢郎は納得顔で頷く。そこで迂闊にも美海は手が震えてしまい、携帯をまた床に落としてしまう。
「返事しなくて良いのか?」
「どうせダイレクトメールでしょ」
 声が上擦る。琢郎に妙だと思われないだろうか。
 顔を上げると、物言いたげな琢郎の視線にぶつかった。途端に心臓が音を立てて脈打ち始める。静かな部屋の中では、琢郎に鼓動を聞かれてしまうのではないかと不安に思ったほどだ。
「ああ、もしかしたら、皐月かもしれないわね。彼女、毎夜のように子どもたちの写メを送ってくるのよ。たまになら良いけど、毎日となると、受け取る方もはっきり言って迷惑」
 満更、嘘とはいえない科白が浮かんだのは、我ながら上出来だと思った。
「まあ、仕方ないだろう。子持ちの心理ってのは、俺にもよく判らんがな」
 琢郎は淡々と言うと、美海をまたじいっと見つめた。
「子どもといえば、そのことで少し話がある」
「なあに? もう今日は遅いし、明日じゃ駄目かしら」
 先刻のメールはシュンからに違いない。早く返事が読みたいのに、こんなときに限って、琢郎は出ていこうとしない。大体、夫がまともに話しかけてくるのなんて、ひと月半ぶりなのだ。
「大切なことだぞ」
「そんなに急を要するの?」
「お前、前から子どもを欲しがってたろう。俺は別にできればできたで良いし、できなくても仕方ないと思っていたんだが、最近、少し考え方が変わってな。お前がそれほど望むのなら、もう少し協力しても良いかなと思うようになったんだ」
「―」
 美海は琢郎の意図を計りかねて、押し黙った。
「子授けで有名なお寺とか神社にお参りするってこと?」
 しばらくして応えた美海に、琢郎が今度はポカンとした。やがて低い笑い声が響き渡った。
 美海はムッとした。
「私、真剣に話してるのよ?」
「お前って、相変わらずだな。純真なっていうか、そういうところは結婚前と全然変わっていない」
 琢郎が美海に近づいてくる。無意識の中に、美海は後ずさっていた。

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