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神さま、あと三日だけ時間をください。

第3章 ♭ミュウとシュン~MailsⅡ~♭

 更に五分ほど経過した頃、車はとある小さなコーポラスの前に止まった。部屋数はどう見ても十にも満たない、小さなアパートだ。
「ここが俺の下宿」
 シュンが下宿していることは、既に美海も知っていた。何しろ、二ヶ月近くもの間、毎日、メールのやりとりをしているのだ。しかも、一日に二時間では済まない日だってある。
 シュンは自分の身の上にひととおり美海に伝えていたから、彼が大学入学と同時にM市内の実家を離れ、ここで一人暮らしをしているのだということも知っている。
 もっとも、彼が美海に自分についてあらかた喋っているのに対し、美海は全く何も明らかにしていない。本名も年齢さえも。
 シュンは市内に自宅はあるが、大学に通うのには少し不便なので、大学の近くに下宿しているのだ。
 案内されたシュンの部屋は、六畳ほどのすり切れた和室と小さな流し場、お風呂とトイレがあるきりのささやかな住まいだった。
「お邪魔します」
 控えめに声を掛けて中に入ると、シュンがいきなり訊いてきた。
「コーヒーでも飲む?」
 美海は首を振る。もう半月以上も続いている嘔吐感がまたぶり返してきていた。コーヒーなんて、とても飲めそうにない。
「ごめんなさい、折角だけど」
「じゃあ、お茶? それともオレンジジュースくらいならあると思うけど」
 シュンは狭い板の間に置いてある小さな冷蔵庫を覗いている。
「男の一人暮らしなんて、ホント、侘びしいもんだよ。バイトで遅くなったときなんて、作るのも面倒くさいから、ついコンビニ弁当で済ませちまって。だから、うちの冷蔵庫って、ろくなものが入ってないんだよね」
「あっ、ウーロン茶がある。どう?」
 美海はゆっくりと首を振った。
「何も。ちょっと気分が悪くって。本当に気を遣わないで」
「そっか」
 シュンは納得し、自分はインスタントのコーヒーを淹れたマグカップを持ってきた。
 和室の中央には、小さな折りたたみのテーブルが置いてある。シュンは美海と向かい合う形でテーブルを挟んで胡座をかいた。
「女の人って、やっぱブラックとかではあまり飲まないもんだよね」
 美海が何も言わないでいると、また独り言のように呟いた。

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